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葬儀の現場から

第134話「葬儀のあり方」

葬儀が始まる1時間半前のこと。
「実は、喪主が倒れて緊急搬送された、何時に式場に行けるかわからないが開式までには行く様にする」と、甥っ子である施主様から連絡がありました。

喪主様は前日から体調が優れず、ただどうしても葬儀にだけは参加したいから大事をとって通夜は欠席されていました。
しかし残念なことに、思うようには回復されず、緊急搬送という事態になってしまったのです。
無理もありません、喪主様は90歳とご高齢のうえ、お亡くなりになったのは、たった一人のお嬢様だったのです。

開式30分前に喪主様の奥様が来られました。
どうしても娘と最後のお別れをしたいとの事で式場に到着されたのですが、その時点でまだ喪主様の搬送先は決まっておらず、しきりに「主人のいく先はどこか決まったの?」と不安げな表情で繰り返し甥っ子さんに尋ねておられました。

故人様であるお嬢様は、仕事の関係でご両親とは別にお住まいだったそうで、病状についてもご高齢のご両親に心配を掛けまいと、あまり詳しくは説明していなかったそうです。
それだけに、ご両親の「まさか」という思いは計り知れないものだったのでしょう。

お嬢様は独身でお子様もいなかったため、喪主様ご夫妻に一番近い親戚である甥御、姪御様が、ご葬儀に関してお二人のサポートをされていらっしゃいました。
ただ親戚同士の交流もあまりなかったようで、お互いに遠慮しあい、この喪主様不在の状況、心労に耐えかねる奥様の状態をどうするべきか、なかなか話が纏まらずにいたのです。
そこで私は敢えてこんな提案をしてみました。
「これから予定通りいけばかなり長時間になります、お骨上げ後に予定していた初七日は後日改めてする事にして、今日は少しでも早く終わって奥様をご主人の所へ連れて行って差し上げてはいかがですか?」と。
喪主様のこともさることながら、私がなにより心配だったのは奥様の体調でした。それはご親戚皆さんもきっと同様のお気持ちだったと思います。
しかし、後日集まる時間はないので初七日は今日中に終わらせたいというのがご親戚皆さんの意向でした。
それならご寺院様さえよければと、式中の初七日を提案してみました。関東のほうでは式中初七日は普通の事になりつつあるようですが、関西ではまだあまり馴染みがありません。 正直なところ私自身も式中初七日には、あまりにも簡略化しすぎではないか、と抵抗があるくらいです。
だだ、今回のような場合、それもいたしかたないのではと思い、住職に事情を説明したところ、住職も快く引き受けて下さいました。
紆余曲折あったものの、その日の行事は、予定よりはほんの少しだけですが早く終わり、奥様はお嬢様の御遺骨を胸に抱いてご主人の入院する病院へ向かわれました。

昔は親族やご近所の方が集まり、お互いに助け合って葬儀をしたものです。最近のご葬儀すべてがというわけでは勿論ありませんが、親戚すらあまり集まらない、集まれない環境になりつつある様な気がします。
また、高齢化が進み参列したくてもできない方、実の子供でさえ仕事でギリギリまで参列できない、孫にもなると葬儀では仕事を休ませてもらえない場合すらあります。
私自身も仕事で祖母の葬儀には出席できなかったという経験があります。

そんな状況を垣間見ると、いったい葬儀は何の為にするのだろう?と疑問が湧くのです。

「葬儀は亡き人を想い、亡き人を偲び、亡き人と過ごした時間を大切に思う、そんな場ではないでしょうか?」と、ある住職から伺いました。
そして続いて「亡き人は自らの身をもって命の大切さを遺された者に示してくれる、遺された者は命の尊さを知る、それが本来あるべき葬儀なのかもしれません」と。

そんな大切な時間を、私達は形式にとらわれ、何時から葬儀、何時に骨上げ、バスで式場に戻って初七日、と慌ただしくスケジュールをこなすように決まりごとの様に葬儀を進めてしまってはいないか?
喪主様はお嬢様の葬儀に参列できず、この上なく寂しい思いをされたかもしれません。しかし、もしかしたらお嬢様が敢えてそうされたのかとも私には思えたのです。

「亡き人は自らの身をもって命の大切さを遺された者に示してくれる、遺された者は命の尊さを知る」
そんな言葉を思い出したとき、遠くからお嬢さんが
「お父さんもお母さんも無理しないで!」
といっている声が聞こえたような気がしたのです。

喪家の事情は様々です。不測の事態が起こる事も珍しくありません。
これからの時代、お葬儀は簡略化、多様化していく事が考えられます。
そんな中でも私たちは、お葬式の本来の意味を見失うことなく、ご遺族にとって
最善のお葬儀を提案できる様にしなければいけないと改めて思わされたご葬儀でした。

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