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葬儀の現場から

第110話「黒子の難しさ」

故人様はご高齢で、すこし痴呆症も出始めていたそうです。
そんな故人様をずっとそばで介護し、見守ってこられた奥様が今回の喪主様でした。
喪主様と故人様に初めてお目にかかったのは通夜の三時間ほど前、私がスタッフとして現場入りしたときでした。
ここのお家の方はどんな方だろう…
ちゃんとお世話できるだろうか…
と、少し不安を抱きながら式場へと向かいました。

式場につき、まずは故人様にご挨拶、そしてご拝顔させていただいておりました。
とても穏やかなお顔で、本当に眠っているかのようです。
その時、喪主様がご到着されました。
他のご親族は通夜開始のぎりぎりに来られるとのこと。
まずは喪主様にご拝顔をいただき、お線香を…と思ってご案内しようと、
「では、お線香を…」と言いかけたところ、喪主様はポロポロと涙をこぼしながら、その場にへたり込んでしまわれました。
ぼーっとした表情で故人様の遺影を眺めながら、私に少しずつお話をしてくださりました。

故人様は自宅で息を引き取られました。
その時喪主様も自宅にいらっしゃったそうですが、全く気付かなかったそうです。
検死の結果(かかりつけの医師がいな場合、自宅で亡くなった際は監察医による検死を受けなければなりません)、死亡時刻は夜中とのことで、気づかなかったのも仕方がないことでした。
ですが、喪主様は「私がそばにいながら看取ってやれなかった。最期、一人きりで寂しかったやろうな…ごめんね、ごめんね…」とご自身を責めていらっしゃいました。
そんな喪主様の姿を見て、私は何も声をかけることができませんでした。
いつも以上に気を引き締め、通夜法会開始…その日はご当家でお食事をされるとのことで、それ以上喪主様とゆっくりとお話しする機会はありませんでした。
その夜、私は喪主様に対して何もできない歯がゆさを覚えました。

夜が明けて葬儀式当日、式場へ到着し喪主様のところへご挨拶に向かうと、
故人様のそばで目を赤くした喪主様がいらっしゃいました。どうやら一睡もできなかったご様子。まだご自分を責めてらっしゃるのかもしれません。
私は一緒に拝顔させていただきながら、「すごく穏やかな顔をされていますよね。」と声をかけました。
すると喪主様が「そうなの。ほんとに穏やかな顔をしてる。きっと最期も苦しまずに逝けたんやね」と、また涙をこぼされました。
そして、滞りなく式は進み、式場で最後のお別れの時。
私は喪主様を気にかけながらも、ご親族に花を配っておりました。
すると、「お父さん、ありがとう…」と喪主様の声が聞こえます。
そこには旦那様へ感謝の気持ちでいっぱいの表情で涙を浮かべた喪主様のお姿がございました。
今思えば、故人様の異変に気づけなかった悔しさや、大切な方を喪失した悲しみを受け入れた瞬間だったように思います。
お骨上げも終わり、帰路につかれる頃には、「ありがとう、よいお式ができてよかったわ」と笑顔の喪主様がいらっしゃいました。

私は今回の出来事を経て、人は思っているよりも弱く、そして底なしの強さを持っているのだと実感致しました。私は悲しみに暮れる喪主様に対して何もできない自分に歯がゆさを感じていましたが、それはただのうぬぼれでした。人は皆、自分自身で悲しみを乗り越える力を持っているのですから、喪主様やご親族が安心して葬儀を進めていく、その手助けをすることが私どもにできることです。またそれ以外に何かしらお手伝いができるとすれば、やはりお葬式の進行にかかる煩わしさや気遣いのご負担を、少しでも軽くすることなのではないか?と感じさせられるお葬式でありました。私どもの仕事は黒子に徹すること。そのことの本当の意味と難しさを教わったように思います。

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