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葬儀の現場から

第119話「お湯灌のエピソード」

以前、私が立ち会わせていただいた、お湯灌のエピソードです。

70歳代の女性のご葬儀を担当させていただいたときのこと。

足が不自由なご主人は、ご自宅でお湯灌を行う際、近くに椅子を置きお座りになりながら納棺師の手際を眺めておられました。

シャワーの湯をお身体に流し納棺師が石鹸をつけたタオルでお身体を洗おうとしたその時、ご主人が椅子からゆっくり立ち上がり奥様の傍に膝をついてお座りになられました。

そして、納棺師の手元に強い視線を向けご覧になろうとされたのです。

納棺師が「よろしかったら、一緒にお身体を洗って差しあげますか」と、
お声掛けをするとご主人は嬉しそうに「洗ってもいいのですか?」と、答えられ
嬉々とした表情で奥様のお身体を丁寧に足先から首下まで何度も洗われたのです。

ご主人はとても幸せそうなにこやかな表情をされており、そのお姿を拝見された周りのご遺族も皆、笑みがこぼれています。

ご遺族の満足されていらっしゃる様子にほっとする気持ちとは裏腹に、納棺師の湯灌をしながら周囲に気を配り、ご遺族のささいな表情の変化を見逃さずに対応する姿に、同じ葬儀に携わる者として身の引き締まる思いを感じました。
私自身が、故人様のお着替えやお体のケアをしているときに、同じように対応できているであろうか?もしやご遺族のそんなお気持ちに気づかず流してしまっていることはなかったであろうか?と。

湯灌の儀、納棺を終え、お部屋でご家族に挨拶をして玄関に向かうと、ご主人がわざわざ、私達を玄関まで見送りに来てくださいました。

玄関で靴を履き挨拶をしようと振り返ると、ご主人が深々とお辞儀をしてくださっていました。

そして「本当にありがとうございました。最後の別れの時に、妻を洗ってあげられるとは思いもしませんでした」と、おっしゃってくださったのです。

人生を共に過ごしてきた、大切な方を喪う悲しみはご家族にしかわからないでしょう。

ただ、ご家族の様子に気を配りできる限りの対応をすることが、私たちにできる唯一のことです。

「願っておられること、望んでおられることは叶えられただろうか?」
「悔いの残らない時間にしてさしあげることができただろうか?」

常に寄り添う気持ちを持ち続けることで、悲しみを和らげるお手伝いができればと思っています。

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