葬儀

「まだまだ先は長い」

近年、日本国内では超高齢化社会、老老介護、認認介護という言葉が飛び交うようになり、これが特別なことではなくなっているのが現状です。

我々の周りを見ても、そういう光景は自然と見受けられるようになってきています。

我々葬儀アドバイザーは、事前のご相談ということでご自宅へ伺ったり、ときには入院先の病室へ伺ったりすることもあります。

そして目につきますのが、日常において高齢の連れ合いの世話や面倒をみているのは、配偶者が多いなという印象です。

様々なケースがありますが、お子さんたちが遠方でお住まいのため日頃の生活は自分たちで何とかやっているとか、お子さんがいらっしゃらないという方も勿論いらっしゃいます。

デイサービスや訪問介護などのサービスを利用されていらっしゃる方もたくさんおられるでしょうが、四六時中というわけではありません。

厚労省の統計では要介護者を主に介護する介護者が65歳以上の世帯の割合は51.2パーセントとなっています。

日本国内において、このような家庭に対するサービスの拡充は急務であることは間違いありません。

そして私は、82歳のお姉様が73歳の弟様を介護され、最期を看取られて喪主を務められた現場に立ち会うことになりました。

お姉様も弟様も、配偶者やお子さんもいらっしゃらなく、2人の間のご姉妹もみなさん既に他界されていらっしゃるとのことでした。

よく言われますが、最近は80代の方でも、若者に負けないくらいお元気でいらっしゃって、80代には全く見えないという方もいらっしゃいます。

この喪主様も、例にもれず大変お元気な方で、足腰もしっかりされていて、難無く正座もされます。

お家の中を見渡しますと、大きなカレンダーにたくさんの予定がぎっしり書き込まれています。

それを目で追っていますと、毎週同じ曜日に、「スイミング」の文字が。

あぁ、若さの秘訣はこれかな?と思い喪主様に尋ねますと、「そうなの、実は4日後にマスターズの大会があって、出場する予定だったのよ!」と元気なお声でおっしゃられました。

「マスターズの大会は、私は80歳以上90歳未満の部、その上には90歳以上100歳未満もあるからね、まだまだ負けていられないわ!!」

「でも、お葬式の翌日でしょ?さすがにやめておこうかと。弟がやめとけ、ねーちゃん、っていっているのかと思って…」と。

「実はこの弟と、こうやって一緒に暮らすようになったのは…」と、その経緯をお話し下さいました。

もうここ10年くらいは病気のせいで弟様はほぼ寝たきりのような生活、動けても車椅子だったので高齢の女性にとっては大変な苦労だったそうです。

それを冗談めかして恨むように、「本当に大変だったわ。この子、元気な時は元気な時で、大学出てから遊んでばかりで、いつも私のところに来てはお金の無心ばかりでね、ずうっと迷惑かけられっぱなしだったわ!」

「それで、もうすぐ大会があるっていうときに亡くなったのよ!もう!」なんて言っては

笑っておられました。

「こんなこといったらダメなのかもしれないけど、ここ10年お互いに大変だったから…。

昨日の夜、急に病院に行くことになって、でもまさかこれで亡くなってしまうとは思いもよらなかったのよ。なんか実感もないけど、心配しなくてよくなったっていう安心感はあるのよ」と、ペロッと舌を出されていました。

 

私にはなかなか想像ができません。もし自分が80歳を超えて、自分よりも若い方を日々介護するということを。

ですから、安心したというお姉様の言葉を否定する気も全くありません。

かえって、きっとそうなんだろうな、そういう気持ちになって当然かもしれないなと、共感をおぼえたくらいです。

このお気持ちはこの姉弟にしかわからないもので、言い換えれば「姉弟の絆」が成せる言葉のように思えるのです。

 

どんなことを言っても、弟様に成仏してほしいというお姉様のお気持ち、弟様のお姉様に対しての感謝のお気持ち、これが通じ合っているからこそ、他人の私に本音を打ち明けてくれたり、冗談を言ってくれたりしたのでしょう。

 

ただ、ご葬儀を終え、日ごとに寂しさが増していくのかな?と心配されていたお姉様の言葉に、私自身も心配していたのですが、別の担当者からこんな言葉を聞きほっとしました。

「やっぱり、明日の大会出場しようかしら?(笑)」