軌跡
「軌跡」とは、車輪の通った跡のことで轍、先人の行いの跡、人や物事が辿ってきた跡、と辞書に記されています。
葬儀という仕事に携わるにあたっては、人の生死について、どうしても考えさせられることが、しばしばあります。
人の一生とは? 生まれてから死ぬまでの間に何が出来るのか?
そのようなことを考えていた時に、 故人様が歩まれてきた、まさに「軌跡」を辿るお葬式というに相応しいのではないかと印象に残る葬儀に立ち会うことができました。
「母親の産まれた場所、育った場所、ずっと働いていた場所を巡ることは出来ま
すか?」と喪主様は仰られました。
お母様をお載せした寝台車に喪主様も同乗され、喪主様の案内に従って車を走らせました。
「建物はないけどここに家があって・・・」
「生家がこの近くで、ここにお店があって・・・」
と、時折、懐かしい気持ちを言葉にされながら巡り、
お母様の職場だったところでは、たくさんの従業員の方々が故人の到着を知り、お声掛けにお出迎えくださいました。
お打ち合わせの際に、喪主様より伺った一番のご希望が、「今日通った場所をもう一度、霊柩車でも巡ってあげたい」 とのことでした。
「来てくれる親族といっしょに、母がどういった所で暮らして、どんな暮らしをしていたのかを話しながら最期を見送ってあげたい・・・」
葬儀社の仕事は、故人様がどのような方だったのかを、経歴や人柄、興じられていた趣味など、たくさんのことを伺いながら、もちろんご遺族の希望も汲み取りつつ、故人様やご遺族に納得いただける儀式や空間を提案し、提供していくという、人の最期に携わらせていただく重大なことだと自負しております。
私は今まで、「故人がどのような方だったのか」を伺うことが一番大切だと考えており、ご遺族が慌ただしいくもお悲しみの中でお答えされるお言葉のみから、いろいろなご提案をいたしておりました。
しかし、この度の喪主様のお話に触れ、今まで故人様について伺っていた内容は、上辺だけを伺うだけで深くまで伺えていないのではないかと痛感しました。
無論、私が故人様のすべてを、ご遺族のお気持ちすべてを受け止められるとは自惚れてはおりませんが、それでも「もう少しでもお話いただけたのではないか?」「もっと自分のお伺いの仕方一つで、ご遺族も思い出されることがあったのではないか…」
と。
故人一生涯の軌跡、その最期に行う大切なセレモニーにしていただくために、私自身が成長し続けること、人の立場にたって考える力を備えることこそが、今本当に大切なことなんだと感じさせていただきました。
ご家族がお葬式の話をされたときに、「おじいさんのお葬式の時、ほら、〇〇さんっていたよね!」と覚えていただけて、故人の軌跡のほんの少しの部分にでも加われるような葬儀人を目指してまいります。