人生の卒業証書
「人生の卒業証書」
そんなタイトルから始まった、お手紙。
とあるお葬式のなかで、一人娘である喪主様がご自身でお読みになられた、お母様に宛てたお手紙でした。
お母様の出生からはじまり、子供時代、ご結婚されたときのエピソード、
そして、母と娘のエピソード。
おそらく、ご家族も知らないエピソードもたくさんだったことでしょう。
晩年のエピソードでは、高齢になったお母様を心配した喪主様が、お母様との近居を選択されたことが綴られていました。
お母様が生まれた時から暮らしてきた自然豊かで、親しい方々もたくさんいらっしゃる土地から、娘家族が暮らす大阪へ。娘様にとってはお母様が近くにいていつでも会える日々は嬉しくて安心できる日々だったことでしょう。
でもお母様にとっては、近くにご友人もいなくて、楽しみもない味気ない日々に感じられたのかもしれません、「もう生きていたくない」と娘様におっしゃられたそうです。
娘様が深い後悔を抱かれたのは言うまでもありません。
母娘にとって、つらい日々を打開したのは、お母様の活動的な性格で、徐々に趣味の教室に通うようになり、お友達もでき、人と接することで前向きに楽しく生き抜かれたと。
娘様からお母様への、尊敬と感謝の気持ちをあらわした、「人生の卒業証書」、
お母様にとって、これ以上ない、誇れる「人生の卒業証書」に違いありません。
こちらの、とあるお葬式というのは、喪主様ご家族3人だけが参列された「家族葬」で、通夜を執り行わない「一日葬」で、お寺様など宗教家を呼ばない「無宗教葬」でした。
お葬式といえば、「通夜をして、翌日には告別式・葬儀をして、出棺して荼毘に付す」、そんな流れが当たり前でした。もちろん、お寺様に来ていただいてお経を上げていただく。もちろん仏式だけでなく、神式、キリスト教式など様々あるかと思います。
そんなお葬式の「当たり前」は徐々に変化し、多様化しています。
家族や、近しい親戚、本当に親しかった友人だけを招いての「家族葬」が一般的になりつつあります。儀式をおこなわずに、ご安置しているところからそのまま出棺して荼毘に付す「直葬」を選択される方もいらっしゃいます。
通夜からはじまり2日間にわたって儀式があったお葬式も、1日ですべてをおこなう「一日葬」も徐々に増えてきています。
そして、お寺様など宗教家を呼ばない「無宗教葬」を選択される方もいらっしゃいます。選ばれる方には、大きく分けて2タイプいらっしゃいます。普段からのお寺様などの宗教家とのお付き合いがない、あるいは宗教家のお礼が高いと感じる方、その一方で、自由にお葬式でこんなことをしてあげたい、あんなことをして送ってあげたいという強い思いがある方は積極的に「無宗教葬」を選択される印象です。
きっと、「人生の卒業証書」をお母様に送られた娘様は、きっと後者だったのでしょう。
お葬式の中で、ご自身で「般若心経」を唱え、お焼香をしていた娘様。
おしゃれで、色はピンクがお好きだったお母様に、普段よく身に着けていらっしゃったスカーフを首元に巻いて差し上げて、「お母さんらしいわ~」と満足げだった娘様。
そして、棺のお蓋を開けての最後のお別れの時間に、お持ちになった30枚くらいのお写真を、これは〇〇のとき、これは××に行ったとき、一緒に写っているのは△△さん、と1枚1枚の思い出をご主人やお嬢様にお話されながら納められていた娘様。
娘様には、信仰心もありつつ、お母様への強い思いがおありでした。
「一日葬」、「無宗教葬」というと、昔ながらのお葬式に慣れている方にとっては、ともすると「簡単に済ませた」「送った気がしない」と思われてしまうかもしれません。
でもきっと、儀式の日数ではなく、宗教家を呼ぶ呼ばないではなく、大切な方を思う気持ちにお葬式のスタイルは関係ないのです。
お母様との最期の時間、お母様と向き合い、お母様と語らった娘様にとって、最高に「良いお葬式」であり、「最高の卒業式」であったに違いありません。
葬儀は、まさに次のステップへとつなぐ「卒業式」
そして遺されたものが故人へ贈る「卒業証書」、この「卒業」という言葉の奥深さに深く心温まるものを感じました。
葬儀社のスタッフとして、これからもお葬式のスタイルにとらわれずに、大切な方を送られる方々と向き合い、故人様を遺された皆様と一緒に、その思いをのせて、「人生の卒業証書」を最高の形でお渡しできるお手伝いをしていきたいと思います。