親子の絆
お母様がお亡くなりになったとの連絡をいただいたのは、夏の終わりを感じさせる、少し冷たい風が印象的な朝でした。
私が病院へお迎えに上がったとき、故人様の傍らには長男様ご夫婦がいらっしゃいました。
お電話では、直接式場へ行かれるとおっしゃっていたのですが、病室に入るや否や、
「やっぱり1回、家に連れて帰ってもいいかなぁ、すっと帰りたい、帰りたい、って
言っていたからなぁ・・・」
と長男様がおっしゃられました。そこで、
「いいも悪いも、もちろん問題ありません。では、ご自宅へ帰りましょう!」
と、ご自宅へ故人様をお連れすることになりました。
ご安置が終わった後、
「やっぱり、家がいいよなぁ。長い間連れて帰ってやれんで、ごめんな」
と、長男様がお母様に話しかけておられました。
その後、葬儀の打ち合わせが済み、私が帰ろうとしたちょうどその時、玄関のドアが開き、慌てられた勢いで男性が入ってこられました。
「電話もらって、すぐに新幹線に飛び乗って来たんや」と言いながら
まっすぐにお母様の枕元へいき、
「お母ちゃん、こんなに痩せてしもうたんやなぁ」と、その場で泣き崩れてしまいました。
その男性は、次男様でした。
しばらくすると、
「なんで、もっと早くに連絡くれんかったんや!連絡くれたら元気なうちに会いに来れたのに、こんな悪くなっているなんて、思ってなかったわ!」
と次男様は長男様に怒りをぶつけ、詰め寄られました。
「そやな・・・、ごめんな・・・」と言ったきり、長男様は黙ってしまわれました。
翌日ご自宅へ伺うと、落ち着かれた次男様が
「昨日は、すみません・・・お騒がせして・・・」と出迎えてくださいました。
私が帰った後、ご兄弟でお母様のお話をされたそうです。
連絡しようか迷っているお兄様に、お母様が
「連絡せんでいいよ。連絡したら、あの子、無理して仕事や休んで帰って来るし、交通費ももったいないからな。私は大丈夫」
とお母様がおっしゃったそうです
「病気のくせに、仕事とか交通費の心配なんかしなくていいのに・・・」
お母様は、「私は大丈夫」と、いつもご自分の事は後回しで、家族の事を優先させてきたそうです。
ご兄弟が小さかった時は順番に風邪をひくので、毎晩夜遅くまで看病したり、兄弟げんかをしたときは大きな声で怒ったり、学校に通うようになったら、朝早くに起きてお弁当を作り、夜遅くまで片づけをし、いつも忙しくされていたそうです。
子育てが一段落してからも、お母様はいつも家で、自分たち家族を温かく見守っていてくれたことに今更ながら気づかされた、と弟様は私に話して下さいました。
ご自宅を出発する前、息子様お二人の手で、お母様を棺に納めていただきました。
その二人の仲の良い光景が、お母様にも見えたかのように、棺に納められたお母様のお顔が少し微笑んでいるように私にはみえました。
少しの行き違いはありましたが、お互いを思いやる家族の絆を感じることができました。
葬儀は本来は誰もが避けたい現実、しかし避けられない現実でもあります。
その中でただ悲しみの象徴ではなく、家族の絆をあらためて、さらに強くする場だと
私は思えてなりません。
葬儀に携わる者として、家族の絆を皆様に感じていただけるようなご葬儀を提供できる
よう、私も日々精進してまいります。