最期のひと晩 葬儀の形態が変わっても…
5~6年前の夏、病院からご自宅へ帰る寝台車の中でのことです。
夏祭りの前日だった為、地車の試験曳きが道を塞ぎ、渋滞に巻き込まれてしまいました。
後部座席の奥様に
「迂回できる道がないか探しますね」とお伝えしたところ、
「主人は祭りが大好きで、祭囃子が聞こえると血が騒ぐとよく言っていました。最後に思う存分祭囃子を聞かせてやりたいので、このままゆっくり帰ってください。」と仰いました。
若い頃からお祭りが大好きで、祭りの時期は家の窓を全開にして祭囃子にあわせてはしゃいでいらしたそうです。お子様方はそんなご主人に対して・・・
「お父さん、暑い、窓閉めて!」
「蚊が入るから、もう閉ようよ!」
「近所迷惑になるからいい加減にして!」
と、ややあきれ気味だったそうですが、一方のご主人は
「夏は暑いから夏なんだ」
「ケチケチせず、血の一滴や二滴、分けてやれ」
「体裁を気にして祭りが楽しめるか」
と家族の抗議は意に介さずビール片手に大騒ぎ、そんなご主人を見て、奥様は今年も祭りの時期がきたな、感じていらしたそうです。
「今年の夏も同じように祭りの時期を迎えるはずだったのに・・・」
入院する日の朝も病院嫌いのご主人は
「祭りまでには帰るからな、祭囃子を聞けば、病気は治る。入院は祭りまでだ!それが入院の条件だ。」と言い張りご自宅をでられたそうです。
そんなご主人ですが、入院後は大人しく看護師さんの言うことをきいていたそうです。
「内弁慶で強気でいられるのは家族の前だけ、だから祭りの日も外には行かず、家で騒いでいたんです」
と奥様は教えて下さいました。
ご安置が終わり、私達が帰った後、お嬢様が
「お父さん、頑固だったから、本当に祭りには戻ってきちゃったね、祭囃子聞いたら、生き返るんじゃない?」
と言って、窓を開けたそうです。
「毎年お父さんの声が煩くて気づかなかったけど、祭囃子って、なんかいいね」
「でも、もうお父さんの声は聞けないね。」
「今年は静かなお祭りになってしまったね・・・。」
と、明け方までお子様方ととりとめのない話をして過ごされたと葬儀後に聞きました。
家族だけの特別な時間だったと・・・。
今年も祭囃子の時期になり、ふとあの日のご家族ことを思い出しました。
最近は1日葬が増え、葬儀のみされる方も増えていますが、やはり最後のひと晩、故人様と対峙する時間、ゆっくりお別れをする時間は大切だと改めて思う葬儀を思い出しました。