若いご夫婦が様々な理由で、まだ生後間もないお子さんを亡くされ、途方に暮れられていらっしゃる光景を何度となく目の当たりにしてきました。
お子さん、特にまだ故人様が赤ちゃんとなると、葬儀をどのようにしたらよいのか、本当に迷われるケースが多いものです。
葬儀社にもいろんなタイプの葬儀社がありますように、そこに従事するスタッフも様々です。
いろいろな葬儀のお手伝いをしてきた葬儀社であっても、対応に窮する場面はあるでしょうし、なかなかお客様の考えとマッチしない場合もでてきます。
そして、その中で一番怖いのは、「固定概念」なのかもしれません。
その若いご夫婦は、2人のお子さんを授かられましたが、そのうちの下のお子さんを事故で亡くされました。
ご夫婦は勿論のこと、そのご夫婦のご両親も、どうしたらよいものかと困惑されていらっしゃいました。
弊社へ連絡をくださいましたとき、ご主人様から、「取り敢えず資料が欲しい、資料だけいただければよいので」ということでした。
そこで、私はご自宅へ伺い、
「参考にしてください、見ていただいて何か気になられましたら、いつでもご連絡ください」
と資料をお手渡しして帰ろうとしましたら、
「すみません、ちょっと上がってもらえませんか?」と。
とにかくどうしたらよいのかわからないという雰囲気は強く伝わってまいりましたので、
敢えてゆっくりとご質問させていただきましたところ、お子さんは今、ご自宅や病院にいらっしゃるのではなく、警察署にいらっしゃるとのことで、赤ちゃんのお帰りは明日になるとのことでした。
そのお話から矢継ぎ早に
「葬儀場はどこになるのですか?お坊さんは呼ばないといけませんよね。
でも、そういうことは全然わからなくて…」
とおっしゃられました。
「そうですよね、お葬式と言えばそうお考えになるでしょうが、
ちなみにお父さん、お母さんはどうしてあげたいですか?」と質問を投げかけてみました。
「どうしてあげたいかって?それが何も思い浮かばないんです…どうしてあげたらよいのか…」
「お父さんお母さんが、葬儀の会場を借りてお寺様にお読経をあげていただいて見送ることが
お子さんにとってよいと思えばそうして差し上げたらよいと思います。
でも会場を借りずに、また読経がなかったとしても、お父さんお母さん、お祖父ちゃんお婆ちゃんに
ゆっくりと見送ってもらうことが一番うれしいと思うかもしれません。
だから、ご両親がどうしてあげたいかが大事ではないかと思うのです」というお話をしました。
「えっ、お葬式するのに会場を借りなくてもできるものなんですか?
お寺さんがいなくてもよいのですか?そんなことできるならこの家から送ってあげたいですよ!」
私に電話口でお話しされたように、何社も葬儀社に問い合わせたところ、資料を持ってくるどころか、一方的に話し始め、お布施のことだとか、自分のところの会場が何人までは入れるだとか、そんな話ばかりされたそうで、あぁ、そういうもんなのかな…と思っていたところだったそうです。
確かに、現代の一般的なお葬式といえば、会場を借り、お寺様など宗教家を招き、通夜、葬儀をするというのが一般的な通念だとお思いますし、実際のご葬儀の大半はそうなります。
こういったご葬儀のすすめ方には、ちゃんとした意味や意義があるものです。だから、その意義を感じられるからこそ、そういったスタイルのお葬式を選ばれるご遺族がいらっしゃるのです。
しかし、すべてが全てのご遺族に当てはまるのかと言えば、決してそうではないでしょう。
このご葬儀は、いわゆる無宗教という形で、ご自宅でたくさんの可愛らしいお花と、買ってもらったばかりのたくさんのお人形やおもちゃに囲まれたなかで、いつもの家族が、いつものように赤ちゃんと戯れているような、そんなお葬式になりました。
このスタイルには、宗教家もいなければ、お焼香をするわけでもありません。
そこに意義を求めたのではなく、最後まで家で「いつものように」ゆっくりとできるというところに、意義を感じられたのです。
ご夫婦からも、自宅でこんな形で出来たことは本当に良かったと、おっしゃっていただけました。
いま思えば、このご夫婦に立ち会わせていただいたとき、私自身の経験が重なり、そのことで、このご夫婦にいろいろなご提案をさせていただけた気がするのです。
そんな、私自身の子供を見送ったという経験が、このご夫婦に何かしらのお手伝いができないものかと、私情的なものが全くなかったかと言えば嘘になるかもしれません。
ただし私は、子供だけでなく祖父母や父親も見送っています。ですから、故人様の年齢で何かしら差がでるなんてことはありません。
そういうことではなく、自身のいろいろな経験、そして今までご担当させていただいた、たくさんの故人様とのご縁、こういった経験を生かして、これからもご遺族と真剣に向き合い、接していくことで、ご遺族が「本当はこうしてあげたい!」というご葬儀に少しでも近づけていただけるのではないかと、ようやくお家に帰ってきたお子さんを、待ち焦がれて何とも言えない暖かい眼差しで迎えられていらっしゃったご両親の様子が、私のそんな気持ちを強くさせてくれた、そんなご葬儀でした。