大好きだったお母様の死…。
男性お二人のご兄弟よりご依頼がございました。
ご自宅で亡くなられ、悲しみに暮れるご兄弟…。
お母様が亡くなられた直後、故人様にドライアイスを当て、枕飾りを設置しお飾りの説明を致しましたが、ご兄弟にはあまり耳に入らないご様子でした。
ご葬儀の打ち合わせが終わり、その日はご自宅でゆっくりとお別れをしていただきました。
翌日ご自宅にご納棺に伺いますと、
枕元にはお母様が大好きだったというバナナとおにぎりがお供えされておりました。
「このバナナとおにぎりは棺の中に入れても良いですか?」
「もちろんです。入れて差し上げて下さい」
こうして始まった納棺の儀。お着替えが終わりご親族にお手添えをいただきながら旅支度。
「こんなに冷たくなって!」と二男様が涙ぐみながら丁寧に紐を結ばれておりました。
お母様に直接触れることのできる時間は残りわずかです。
お葬式は通夜と葬儀式に分かれているのにも様々な理由があるのだと思います。
私が一番に思う理由は、やはり故人様の死を受け止めるのに時間が掛かるからだと思います。
「死を受け止める時間」は人それぞれです。
故人様との想い出を思い浮かべる―。
故人様にしてあげたかったことが出来ないという無念…。
あの世で幸せになって欲しいという願い…。
触れても声を掛けても反応をしない現実を目の当たりにして少しずつ死を実感されていくのです。
様々な思いや目の前にある現実の積み重ねで徐々に故人様の死を受け止めていくのがお葬式だと思うのです。
通夜―。
たくさんのご親戚に囲まれて見守られるお母様。
二男様は周りのご親戚に気丈に振る舞いながらも時折涙を流されておられました。
しかしその涙は最初にお会いした時の涙とは違い、
お母様に何か出来ることがないかという気持ちが表れておりました。
「おっかぁに手紙を書いてあげて」と言いながらご親戚の皆様に用紙を渡されておりました。
葬儀当日のお別れも終わり火葬場へとお柩が向います。
火葬炉前に到着し、炉の扉が閉じようとしたその瞬間、
「おっかぁ!」
と二男様の涙にむせた声が火葬炉前ホールに響き渡りました。
それがお母様に贈る最後の言葉でした。
火葬炉前ホールに響く心の底から出たその言葉からは、母の死を受け止めて力強く生きていくという思いを感じました。
「ありがとう!寂しいけど頑張るよ!お疲れ様!」
きっと、こんな言葉が続いていたのではないでしょうか。
その声はお母様にも届き、きっとこれからもご兄弟を見守ってくださるように思います。
「死を受け止める時間」は人それぞれと言いましたが、ご兄弟がお母様の死を受け止めるにはきっとたくさんの日数がかかるのではないでしょうか。
いつもそばにいるのが当たり前だったお母様が、突然いなくなるのです。
たくさんの想い出を浮かべながら、少しずつ受け止めていかれるのではないでしょうか。
ご遺族とともに過ごした数日間の中で、もしかするとこの葬儀の場は「お別れの場」ではなく、故人様とご子息が「親子」としてじっくり「向き合える場」になったのかもしれないとふと思い、そんなかけがえのない大切な場を提供するものとしての責任感を改めて強く感じる葬儀でした。