「遺影写真」
祭壇に飾られた遺影写真の故人様は少しうつむき加減で、満面の笑みを浮かべておられました。
喪主様が、「ええ写真やなぁ、オカンらしいわ、この写真撮った時の事思いだしたら、
泣けてくるわ」とおっしゃると
「お父さん、この写真、嫌がってたくせに」 と奥様とお嬢様に言われ、
「ええねん、オカン派手好きやったから、最後も派手な方が。これにしてよかってん」
といい返す、こんなやり取りを拝見し、私はお打ち合わせの時の、ご遺族のご遺影に
まつわる話を思い出し、葬儀ではありますが、微笑ましく思ったことを覚えています。
打ち合わせの際、初めに渡された遺影写真の原稿は、誕生日に施設で撮影されたお写真でした。その写真を見た奥様が
「こんな、化粧もしてないし、普段着の写真・・・あかんわ、違うのにして」
と言い、家族旅行の際に撮った写真を渡されました。
その写真を見た喪主様は
「あかん、いつの写真や、若すぎる、こんなん詐欺やで。しかも化粧も濃すぎるわ」
と反論。すると、奥様が
「女性やからええねん、きれいな方が。それにお母さん、いつも綺麗にしてはったで。」
と更に言い返し、喪主様は
「この写真は張り切りすぎてる、よそ行きの顔すぎるわ」と不満気でした。
そんなお二人のやり取りを聞いていたお嬢様が、
「そういえばおばあちゃん身だしなみにはうるさかったなぁ。制服のブラウスとか、いつもアイロンかけてくれたし・・・。なんか他にいい写真ないの?」
と、家中のアルバムを出してこられ、ご家族で写真会議が始まりました。
「おばあちゃんが着てるこの服、覚えてる!すっごい似合ってた!」
「恥ずかしげもなく、よう派手な服きとったわ」
「この写真、みんなで〇〇へ行った時の写真や、そういえば、この時おばあちゃんに買ってもらった〇〇がまだ二階にあるわ、ちょっと持ってこよう」
「あの趣味の悪いやつか、そんなん持ってこんでええねん。はよ写真決めろや」
と喪主様は何かとケチをつけていましたが、奥様とお嬢様はお構いなしで
「この写真〇〇の時や」、「そういえばお母さん、加山雄三が好きやってん」
「そうなん?知らんかった。あっ、おばあちゃん昔、のど自慢よくみてたわ!」
とアルバムをめくっておられました。その横で喪主様は
「ええねん、今はそんな話」
「いつの話や」
「覚えてへん」
「はよ決めろて」
と、小声でささやかな抵抗をされていました。
奥様とお嬢様に押し切られる形で決まったお写真はひ孫様とご一緒のお写真でした。
このお写真を撮られた日もおしゃれだった故人様は、ひ孫様と写真を撮るための洋服を
朝から選んでいたそうです。
その時も喪主様は
「お前がめかしこんでも意味ないぞ」「またそんな派手な服着て、歳考えろや」
とブツブツ文句をおっしゃていたそうです。
遺影写真には写っていませんが、原稿には、俺はいいと言い張る喪主様に故人様が無理やり赤ちゃんを抱っこさせ、今にも泣きだしそうな赤ちゃんを見てオドオドする喪主様と、その様子を楽しむ奥様、赤ちゃんを横であやす故人様、が写っていらっしゃいました。
故人様の人生のほんの一瞬を写した写真ですが、そこにご遺族の故人様に対するたくさんの想い、共に過ごされた時間を感じる事ができ、心温まるご葬儀だったと思います。
悲しいだけではなく、故人様との思い出を振り返る事で、少し温かい気持ちになれる、
そんなご葬儀を提案できるスタッフになりたいと思わせていただいたご遺影選びの
時間でした。