「いってらっしゃい」とピースサインを作った手を前に突出しながら声をかけるお父様。
そして、その後ろで同じように真似るご家族の姿。
これは、私が担当したある葬儀の火葬場の釜の前での出来事でした。
それまで平然を装っていた喪主であるお父様が急に目に涙を浮かべながら亡くなった息子さんに声をかけるお姿。
厳かでありながら、どこかほほえましい家族愛がそこにはありました。
施行担当者である私は、これまで多くの方のお別れに携わってまいりました。
お棺に寄り添い故人様の頬をなでる人、ただただ、立ちすくみ目に涙を浮かべる人、
「ありがとう」と声をかける人、キスをされる人など大切な方とのお別れの方法は
千差万別であり同じ葬儀など、どこにも存在しません。
そこには毎回違ったドラマがあり、故人様が生きてこられた何十年の証を垣間見ることが出来ます。
この最後のお別れを通して、遺された方はご自身の気持ちを整理され、大切な方の死を受け入れていかれます。
私たち葬儀社に求められていることは、周りを気にせずお別れに専念できる空間を作ることです。
きれいな祭壇でもなく、豪華な食事でもなく、この最後の一場面がのちに葬儀の思い出として残るものなのです。
そしてそんな一生に一度の場面に携われていることに責任の重大さを改めて感じるとともに誇りに思います。