ご自宅へ
私たち葬儀社は、ご逝去の知らせを受けたら、まずお亡くなりになった方をどこに連れて帰って差し上げるか?をお伺いいたします。
「近所迷惑になるから、自宅はちょっと・・・」
「うちはマンションだから、周りに申し訳なくて・・・」
と、ご自宅に連れて帰ることをためらう方がいらっしゃいます。
ご自宅に連れて帰って差し上げる意思がご遺族に全くないのであればよいのですが、「本当は自宅に連れて帰りたいけど、ご近所様の手前、やめておこう」となることもあるのではないか?と考えることがあります。
私がもし葬儀社勤めでなければ、きっと、「悲しみの中にあるご遺族が、そこまでご近所様に気をつかわなければならないものなのか?お葬式は一大事、そこはお互い様ではいけないのか・・・?」と思っただけだったかもしれません。
時代の流れとともに、近所付き合いが希薄になっているのか、葬儀に対する認識が変わってきているのか・・・? いろんな要因は考えられます。
とは言え、悔いが残ってはいけません。ましてや事前にご相談をされていらっしゃるのであれば、どこにご安置をするのかという話は多少なりともゆっくりと考えられるかもしれませんが、そうでない場合、その瞬間にどうするかの判断を迫られるわけです。
ご自宅を躊躇われていらっしゃる理由が、ご近所の手前…というような印象を受けたときは、
「悪いことをしている訳ではないので、ご自宅に連れて帰って差し上げたいと思ってらっしゃるのであれば、連れて帰って差し上げてはどうでしょうか?目立たない様に配慮いたしますし、必要であれば私達からご近所様にお声かけいたしますので・・・」
と念の為ご提案してみますが、大半の方が
「いや、もう自宅はやめておきます」と仰います。
ご遺族が決めたことであれば無理強いはできませんし、それ以上何かを言って迷わしてはいけません。
本当に良いのかな?といつも勝手ながらに思うことがあります。
ただ、先日こんなことがありました。
奥様を亡くされたその方は、迷うことなくご家族で暮らしたマンションに奥様と帰られました。
日中であったため、エレベーターを待っている間に当然ながら他の住人の方もエレベーターの前にどんどん来られます。
「お先にどうぞ」と、私が順番を譲ろうとしたところ「こっちが先なんだから譲る必要があるか!1時間も2時間もエレベーターを止める訳でもないし、堂々と帰るぞ!」と、ご主人様からお𠮟りをうけてしまいました。
真っ先にエレベーターに乗りこみ、「そこ空いているから、まだ何人か乗れるから遠慮せず乗ってください」と、遠目に見ている他の住人の方を手招きされていましたが、皆様遠慮されました。
私が子供の頃は生活の中に葬儀があり、通学途中に葬儀をしている家があったら「静かに家の前を通りなさい」と言われたものです。
そして子供ながらにある意味、興味というか関心を覚えたものも事実です。
そんなとき、あっ、と頭に浮かんだのが、「尊厳」という言葉です。
何が正しいのかはわかりませんが、この度のご主人のように「何も遠慮する必要はない」と思われる方もいらっしゃれば、ご自宅へ連れて帰るのを躊躇われるご遺族の中には、「故人を好奇の目に晒すのが嫌だ」と思われる方もいらっしゃるのではないか、と。
つまり「見られたくない」という心情です。
その地域で長年暮らしてこられて周りも知った方ばかり、という状況でもなければ、なおさらそのように考えてしまうご遺族がいても不思議ではありません。
無論、マンションの他の住人の方も、そんな目で見る方はいらっしゃらないでしょうが、ましてや一緒に暮らしていなかったとしたら、なおさら状況がわからず躊躇ってしまうこともあって当然だと思いました。
私は、葬儀が生活に密着したものではなくなってしまったのか?ということばかりを考えてしまいましたが、体裁ではなく故人の尊厳という見方から考えると、いろいろなご遺族の心情をもっと考えなければ、と思わされました。
自宅に連れて帰る、やめておくということに対して、できるアドバイスはさせていただいても、最終的な意思を尊重し、どこが安置場所であってもきちんと対応する、それがプロの仕事であろうと。
「ぜひ、住み慣れたご自宅に連れて帰って差し上げましょう」
この言葉に対して責任感と重みを感じるようになりました。