人が亡くなるということは、誰もが直面し経験することで、
ごく自然な日常の出来事ではないでしょうか。
若い人からすれば、高齢の祖父や祖母が亡くなるということは辛い出来ごとですが、
「自然のながれ」と素直に受け入れてしまうかもしれません。
しかし、若い人が自分の母親を亡くしてしまう。
それは事実であるが、若い人からすれば受け入れにくい事実でもある。
ご葬儀を担当した私も少々、心がざわめいてしまいました。
お亡くなりになられた方は奥様。
喪主を務められるのはご主人。
そして4人のお子様。
そして数年前、喪主様のご両親の葬式を担当していたのが私でした。
故人様をお布団の上にお寝かせし、お顔を拝顔させていただくと昔の記憶が鮮明に蘇ってまいりました。
担当者として新人だった私は奥様にご指導いただき、ご葬儀を無事に完遂することができたのです。
私は椅子に腰を下し、机の上に資料を並べ喪主様とご葬儀について打ち合わせを始めました。
しばらくして4人のお子様達も同席し、目を真っ赤に腫らしうつむきながら私と喪主様の話しに耳を傾けていたのです。
おおまかな内容が決まると、喪主様は「お前達はどういう葬儀にしたいんや?」と
子供達のほうに目線を移しました。
子供達は互いに顔を見合わせ、長男さんが率先しながら祭壇のカタログを囲み「お母さん、ピンクの花が好きやった」など互いに意見を出し合いご葬儀の詳細を決めていかれました。
その後、お見積書ができあがり喪主様に署名捺印をしていただき、無事契約となりました。
契約が終わると、子供達は「私は○○が無いから買いに行ってくる」・「俺は○○に連絡して手配しておく」など互いに確認しながら足早に出かけて行かれました。
その時、自分達の手でお母さんのお葬式を良いものにしてあげたいという思いを強く感じ、私も絶対に皆様に満足していただけるご葬儀にしようと心に誓いました。
お葬式当日、式事の遅れもなく無事にご葬儀を終えられ、故人様はご家族様と共に火葬場へ向かい荼毘にふされました。
数時間後、お骨拾いのため火葬場へ向かうと沈痛な面持ちの喪主様と娘様がおられました。
喪主様は私の顔を見ると近くまで歩いて来られ、静かに話しかけてこられたのです。
「実は、娘が柩の中に母親の形見として残しておいたダイヤの指輪を誤って入れてもうたんや・・・もう、火葬で溶けたんかな。見つからへんやろか?」
私は「正直に申し上げますが、僕にもわからないです・・・。とにかく収骨の際に職員さんに探して頂けるようにお願いしてきます」と伝えその場を後にしました。
収骨の時間になり皆様が火葬炉の前に集まりました。そして職員さんが火葬炉の扉を開けるスイッチをおもむろに押しました。
「ギーッギーッ」とういう機械音とともに扉が開き、奥から白いお遺骨が出てまいりました。
そして、静かな沈黙の後にどよめきが起きたのです。
故人様のお顔元に黒光りする指輪が誰かに見つけてもらいたという意思があるように光っていたからです。
職員さんに案内され、娘様は目に溢れんばかりの涙を溜めながら静かに黒光りする指輪を拾い、ハンカチで包みました。
その瞬間、周囲から安堵の声がもれました。
そして、娘様とお母様との思いが通じ合ったような気がした瞬間でした。