安心
「葬儀のことを考えるのは、縁起でもない」
「そんなことを考えるのは、頑張っている人に失礼だ」
「まだ決まったわでももないし、相談したとたんにもし…」
ご葬儀の事前相談、近年、テレビなどのマスメディアでも、コマーシャル等が何気なく流れるようになり、その背景には一時期騒がれた終活ブームがもちろん影響もしているのでしょうが、「お葬式」に対する忌避的な感覚は、以前に比べると受け入れられやすくはなってきているのであろうか。
とはいえ、前述したように「相談」を回避したいという気持ちは当然のことであり、まだそういうお気持ちの方もたくさんいらっしゃるのも事実です。
実際に葬儀の事前相談をされる方の割合というのは、増えています。かといって、実際に当社で葬儀を依頼された方のうち割合的には実際のところで言えば、半数にも満たないところかと。これを全国的にみれば、おそらく2~3割くらいしかないのではないでしょうか。
もちろん、地域性やその暮らしている環境などにより、いわゆる「相談」をしなくても周りがその時に助けてくれるという、昔ながらのコミュニティがきちんと形成されている地域もあります。そのことで、「急いで相談しなくても…」という方も一定数はいらっしゃられるでしょう。
ただ、これが現在、特に都市部では「家族葬化」いわゆる「葬儀の小規模化」で、周りに頼るわけにはいかないため、自身で様々なことを調べ、考えなければならない時代になっているわけです。
先日も、「自分の親2人に、連れ合いの親も送ったのに、もちろん私が主になってやっていたわけじゃないけど、いざ自分の連れ合いがとなると、何から聞いて、何を準備したらよいかも全く分からない…」と仰られる方が相談にお越しになられました。
よく言われる、葬儀は慣れるようなものではないし、何十年も前のこととなれば、忘れて当然、ということです。
それでも、その相談を進めていくうちに、思い出されてくる、記憶が蘇ってくることが、どんどん出てくるのも、このお葬式の特徴。とはいえ、この15年くらいで都市部の葬儀の形態は、大きく変化しているので、実は過去の記憶がすべて当てはまるとも限らないものです。
様々な状況、お気持ちをもってご相談にお越しになられるわけですが、ご自身のことで相談に来店される方は本当に綿密に細かいところまできっちり決められる方が多く、ご要望(それは、お金を掛けるとか掛けないとかのことだけに限らず)もしっかりとお伝えくださいます。
逆に、本当に勇気を振り絞って来店され、連れ合いのことや親御さんのことで、医師から余命宣告をされたから、という方の場合、一番は本当に来てほしくないその日が来た時に、「どうしたらよいのか?」というこの1点です。
自分一人でできるのか?誰に連絡したらよいのか?まずどこに連絡したら?すぐに役所へ行かないといけないのか?お葬式はいつになるのか?…
考えれば考えるほど、不安が募り、慌てる必要のないことまで次から次へと頭に浮かんでこられます。
その方々に「どういうお葬式をお考えか?」というのは、お分かりの通り、「愚問」なわけです。
私は、事前のご相談、且つ、もしかしたらあまり時間的な余裕がない、というご家族からのご相談では、「我々がいます」ということだけをお伝えすることに専念しております。
そして必要かつ最小限のこと、お聞きになられたいことのうち、本当に「いざというとき」にこれだけは覚えておいて欲しいこと、だけをお伝えすることに努めることにしています。
これは私の経験で、かなり以前のご相談のとき、ご来店されてから5分以上、一言も発せられず、ただ時間が経過する状況だったのですが、私もいっしょに黙っていました。10分、15分と経過する中で、相談者様が顔を上げられたときに私は名刺を見せて、「ご不安な時は、いつでもここに電話してください。いつでも大丈夫です」とお伝えだけしました。
簡単な資料をお渡しし、お店を出られお見送りをしているとき、数歩歩いて私の方を振り返り、大粒の涙をこぼされながら「すみません、相談しにきて良かったです、ほっとしたら…」と。
全ての方がそうだということではないのかもしれません。ですが、これが私の中で大きな答えとなったことは、今でも、いや一生忘れないことになりました。
ご依頼をいただいたとしたら、葬儀を滞りなく行うこと、それは「葬儀社」としては当たり前ですが、
「ご不安の渦中にある方」に「安心」を提供するのも、葬儀社スタッフとしての大きな役割だと。