家族葬の定義
家族とは「夫婦の配偶関係や親子・兄弟などの血縁関係によって結ばれた親族関係を基礎にして成立する小集団」と辞書に記載してあります。
ただ、「家族葬」となるとその限りではなく、明確な定義はありませんが現状では家族や友人を中心とした少人数でのお葬式の総称となっています。
先日、担当させていただいたお葬式も家族葬でした。
その日の午前中にお電話で事前相談ご希望のお客様がいらっしゃいました。
お声を聞く限り30代から40代ぐらいの男性の方でサトウ様(仮名)、病院に入院されている心配な方がいらっしゃるとのこと。
ご希望は安置からご家族がずっと付き添えること、急なことで準備ができていないので費用は抑えたいがとにかく家族でゆっくり送りたいとのことでした。
心配な方の詳細を伺うと、義理の弟様で年齢は40歳、1か月前に急に倒れて意識が戻らず今に至っているとのこと。
お母様やお姉様は少し混乱されており義兄の自分が今後の事を考えて動いていますとおっしゃっておられました。
ご安置から葬儀の流れや費用面などを一通り説明し事前相談は終了しました。
夕方、私の携帯電話にサトウ様からの着信。少し嫌な予感がし、電話にでると先ほど息を引き取ったとのこと。
すぐに病院へお迎えにあがり、病院の安置室へ向かうと泣き崩れているお母様とお姉様とその横で気丈にご挨拶をしてくださるサトウ様。
すぐに付き添いが出来る葬儀ホールへお連れし、ご家族様と葬儀の詳しい打ち合わせに入りました。
事前にご希望等をサトウ様から伺っていたため打ち合わせはスムーズに終了。
火葬炉の空き状況でお通夜まで2日間日程が開くため、ネットでスーパーやコンビニ、銭湯などの場所をお調べしてご家族にお伝えしました。
その時に故人様の妹様かな?という30代ぐらいの女性が最寄りの駅はどこかという質問をされました。とても周りに気を遣いながら質問をされていたのが印象的でした。
次の日サトウ様から電話があり「火葬場へ行く前に霊柩車で義弟が経営していたお店に寄ってもらいたいんです。昨日お伝えしていればよかったのにわがまま言ってすいません」との事。
すぐにご住職へ事情を説明し、距離を考慮すると今のままでは時間的に厳しいので、開式時間を30分早めてお店に寄る時間を作る事が最善の選択肢であると判断いたしました。
その日の夕方、式場へドライアイスの交換へ伺いました。するとお母様とお姉様がいらっしゃり、お店に寄る事へのお礼をおっしゃられました。
その会話の中で「お母様もお店にはよく行かれてたんですか?」と伺うと「実はずっと話には聞いてたんですが行ったことないんです」との返答。そこから詳しく話を伺ってみると、、、
前日、打ち合わせが終わり私が帰った後に最寄り駅の質問をされた女性、ミキさん(仮名)が自分はお葬式には参列しないと言い出し帰ろうとされていた。
実はミキさんは故人様の長年お付き合いされていらっしゃた方でした。
お付き合いされて2年ほどで半同棲状態。将来は結婚しようと故人様と約束していたが明確にいつ結婚するという話にはまだなっていなかったため、打ち合わせの中でお母様が「家族葬で」と何度かおっしゃったことで、自分は家族ではないと遠慮されたそうです。
その話をミキさんから聞いたお母様は「私はあなたを唯一息子の最後の様子を知る家族だと思っている。そんな悲しいこと言わないで。」とおっしゃったそうです。
それを聞いたミキさんは号泣。泣きながらずっと「ごめんなさい」と繰り返していた。それは故人様へ向けた言葉なのか、ご家族へ向けた言葉なのか。
ひとしきり泣いて落ち着いたミキさんから出てきた希望が「お店に行きたい」でした。
故人様とミキさんの出会いはそのお店で、一番の思い出の地。
迎えた葬儀当日、無事にお店に寄って火葬場へ入場。全ての日程が終了し私がご家族と挨拶していると最後にミキさんが声をかけてこられました。
「本当にありがとうございました。彼は亡くなってしまったけど、私は彼のおかげで優しい家族が増えました。」と涙を流しながら必死で笑顔を作っておられました。
家族葬という言葉が明確な定義もないまま独り歩きしていますが、私は「血のつながりや世間体などは関係なく、最期に故人様を送ってあげたいと心から思っている人だけが集まって行うお葬式」なのではないかと思います。
日々、様々なスタイルの家族葬に関わらせていただいておりますが、これからも参列されているお一人おひとりの想いを余すことなく汲み取っていけるような、そんなお葬式を提供できる人間になろうと今回の経験で再度心に誓いました。
葬儀終了の翌日に改めてお母様からお礼の電話をいただきました。その際に四十九日の予定を伺うと「家族だけで自宅でおこなうことにしました。もちろんミキさんも」と少し嬉しそうにおっしゃっておられました。