最後の衣装と聞くと「死装束」をイメージされる方が多いと思います。
日本の葬儀では、昔から仏式で行われることが多くあります。死装束として経帷子を着せて故人様をお送りします。仏教の考えでは、死者は浄土という仏様のいる国へ旅に出るとされており、その旅の装いとして経帷子が良いとされております。そして、お亡くなりになった方のお召し物となりました。仏教における巡礼者、修行僧の服として故人様の死後の旅をつつがなく旅立てるようにと願いを込めて整えるものです。
ですが、最近は「エンディングドレス」というネーミングで、自分が最後に着せてもらいたい洋服を生前に準備される方もいらっしゃるそうです。
そんな最後の衣装の重要性を教えていただく経験がありました。
旦那様がご逝去されたとの連絡を受けすぐに病院へお迎えに。
奥様は悲しい気持ちをグッと抑えながら病室でお迎えにあがった私に対応してくださいました。
故人様をご自宅へお連れし、落ち着いたところで今後の葬儀の打ち合わせが始まりました。
打ち合わせ中も奥様は気丈に振舞っておられましたが、私の「故人様へお着せするお召し物でご希望はございますか?」という質問に黙り込んでしまいました。
10秒程の沈黙の後、「最後にしては派手かな・・・」と小さく呟いてから奥の部屋へ歩いて行かれました。
「この服が一番気に入ってて、、、」と遠慮がちに持ってこられたのは、キラキラのスパンコールが散りばめられた派手な洋服。
詳しく伺うと、長年ご夫婦で社交ダンス教室に通っており、2人で大会に出場した時に来ていた衣装とのことでした。
奥様は先ほどまで抑えていた感情が社交ダンスの話題になったとたん抑えきれずに、涙を流しながら様々な思い出を教えてくださいました。
「そのような想いがこもっている衣装なのですね。旅立ちの衣装として凄く良いと思います!」と私が申し上げると
「ありがとう!聞いてよかったわ。」と言いながら、大会に出場した時の写真を持ってきて見せてくださり、遺影写真もすぐに決まりました。
そして翌日、湯灌が無事に終わり衣装に着替え終えた際に「あぁこの服にして良かった!表情もあの時と一緒!」と涙ぐまれているお姿を見て最後の衣装の重要性を再確認しながら、私は打ち合わせを思い出していました。
今回は奥様が悩みながらも意を決して思い出の衣装をお持ちくださった為、故人様に着ていただけましたが、自分の思いを伝えることが苦手な方だった場合はどうだったのだろう、、、
私はお客様から言いにくい事でも相談しやすい存在になれていたのだろうか?
私はそういったお客様の心情に上手く向き合ってこれていたのか?
故人様のことを考えて可能な限りの提案が出来ていたのだろうか?
今まで打ち合わせをしてきた中で、実はもっとこうしてあげたかった、ああしてあげたら素敵なのに。と考えていたお客様がいらっしゃったのではないだろうかと、、、
1度限りで、やり直しの効かない葬儀というものの難しさ。そしてその葬儀に携わっている責任感を痛感しました。
現在日本でも家族葬や一日葬、直葬など様々な形態の葬儀があります。しかし、大切な方をきちんと送ってあげたいというご家族の気持ちに葬儀の形態は関係ありません。
ご家族が後悔を絶対に残さないように、ご要望を「聴く」ということ。想いを形として実現出来る「最後の衣装」の大切さを教えていただきました。