葬儀と8050問題 大阪生野の老舗葬儀社スタッフが語る、葬儀の現場
「8050問題」という言葉をご存じでしょうか?
80代の親が50代の無職の子供の生活を年金で支えている状況を指す言葉だそうです。
原因は、引きこもり、就職難など様々ですが、今の自分自身の生活で「8050」問題と言われても、あまり実感がわかないというのが正直な気持ちでした。
ですが、先日ご葬儀を担当させていただいたお客様がまさに8050問題を抱えたお客様でした。
生活を支えていたお父様がお亡くなりになり、息子様がご相談に来られたのですが、まず息子様が私におっしゃったのは
「申し訳ありませんが、葬儀は直葬で考えています。最低限の事しかしてあげられません…」
「実は数年前に事業に失敗して、それから再就職することもなく、親の年金で生活をして
いました。姉もいるのですが、その姉も心の病気を患っており、もう20年近く自宅に引きこもっている状態です。経済的にも苦しく、役所へ生活保護の申請にも行きましたが、親の年金収入があるとの事で受理されず、ギリギリの生活を送っています」
「ただ、今年に入って父親の体調が急に悪くなり、私も危機感を覚え、人材センターの紹介で週に4日清掃の仕事を始めたのですが、立派な葬儀を出せる程の収入がないのです」とのことでした
一通り息子様のお話を伺い、
「そうですか、ご家庭の事情などはよく分かりました。だた、お金をかけることだけが立派なお葬式という事ではありません。大事なのはお父様の為に、何かをしようというお気持ちです。今の状況でお父様の為に何をして差し上げられるか、一緒に考えましょう」とお伝えしました。
しかし、現実は厳しいものでした。
棺に手向ける花は折り紙で折り、写真100均でフレームを購入しご自宅にあったペンで
模様を描きました。手作りできる物は全て作っていただき、削る事ができる費用は全て削った見積もりを作成しましたが、支払いは困難との事でした。
葬儀ローンのご提案もさせていただきましたが、自己破産している為、ローンは組めないとの事でした。
息子様と相談し、現状の預貯金、今後の収入、必要な生活費を計算し、不足分を親戚に貸してもらえないか、頼む事にしました。
ただ親戚といってもほぼ疎遠の親戚ばかりです。
「父親の葬儀代が払えない、貸してほしい」と頼む事がどれほど辛い事か・・・。
「何で、もっと早く働かなかったのだろう」
「事業に失敗して、自暴自棄になって、親に甘えるだけ甘えて、本当に情けない…」
「親がいつまでも元気でいるとは限らない、そんな当たり前のことに何故気が付かなかったのだろう?」
と息子様は何度も繰り返しておられました。
そんな息子様を見ていると、あるお寺様が法話で仰っていた事を思い出しました。
「人の死はいつ何時かわからない。いつか必ず迎えるものだからこそ、生かされている間に精一杯生きなければならない」
確かに息子様は、事業に失敗して数年、自暴自棄になっていた時期があったかもしれません。
しかし、お父様の葬儀にあたり、疎遠だった親戚に頭を下げる息子様の必死な姿を拝見して、息子様は今からでも、精一杯生きていける。そしてそれが、亡くなったお父様への何よりの供養にもなるはずだと、私は思いました。
数日後、何とかお金も工面でき、息子様の笑顔に見送られお父様は旅立たれました。
今回のお葬儀で、なんの実感もなかった「8050問題」を少し実感することができました。
「8050問題」は深刻な問題で、簡単に解決するようなことではありません。
ただ、今回息子様はお父様の葬儀を行うことで、8050問題と向き合い、ご自身で解決の糸口を見つけられたように感じました。
葬儀は聞法の場、教育の場ということをよく言いますが、命をもってして、何かを伝えられたということこそ、葬儀本来の意味や意義であると痛感させられるご葬儀に思えました。
今回のように複雑な事情を抱えたご家庭のご葬儀を担当させていただく事もございます。
私達は寄り添うことしかできませんが、寄り添うことで、ご遺族の気持ちが少し強くなったり、前向きになられたりすることができれば、と強く感じたご葬儀でした。