選択肢
今の時代、何をするにしてもたくさんの選択肢があります。
カレーを食べるにもチキンカレー、カツカレー、野菜カレーなどがあり、その上で辛さまで選べます。
ネットショッピングなんかはその最たる物で、世界中の商品から選べます。
そして、お葬式も様々な形から選ぶことができるものになりました。
直葬、家族葬、1日葬、一般葬。どこの式場でどんなお花を用意して、誰にきてもらうのか?
選択肢がたくさんあると「選べる楽しさ」と「決める難しさ」がドッと押し寄せてきます。
今回の喪主様も「決める難しさ」に頭を抱えていました。
亡くなられたのはお父様。喪主様は一人娘で参列の予定は喪主様家族と喪主様の旦那様のご両親。
喪主様は旦那様のご両親には来てもらわずに家族だけで直葬にとお考えだったようですが、旦那様が頑なにダメだとおっしゃいます。
「絶対にダメ。一生後悔するよ。質素でいいからキチンとお葬式をしよう。お金の事は考えなくていいから。」
喪主様はお金の為だけに直葬を考えていたわけではありませんでしたが、自分の親の為に旦那様の稼いだお金を使わせるのを躊躇っている部分もあったのでこの言葉が後押しになりました。
その後、私から選ぶ形によっての違いとそれぞれの大まかな流れをご説明しました。
お話を伺うと、どうやら旦那様はお通夜の後の食事、いわゆる通夜振る舞いにこだわりがある様子。
その中で1日葬はお通夜にお寺さんが来てのお経などの儀式は無いけど、2日貸しの式場なら祭壇を飾ってお父様もご安置してるので前日から来てお食事などゆっくり出来ますよとご説明。
喪主も納得の上で1日葬でおこなうことが決まり、細かい打ち合わせに。
その中でお父様のお人柄を伺うと、「昭和の頑固親父」「笑顔を見たことが無い」「厳しすぎて高校卒業と同時に逃げるように東京へ就職して家を出た」などなど喪主様からどんどん積年の恨みの言葉が。
喪主様が小学生の頃に病気でお母様を亡くされお父様1人に育てられた。とにかく無口でおはよう、ただいまの挨拶をしても「うん」しか言わず、そしてなにより厳しくて門限、礼儀、食事マナーに至るまで毎日怒られていたとの事。
「自分は「うん」しか言わないくせに私が挨拶しなかったらすぐ怒るんですよ!」と思い出し怒りの喪主様。
最終的には「まぁ最後だし、化けて出られても困るからちゃんとやってあげよう」と少し諦めモード。
そして葬儀の前日。喪主様家族が来られた30分後に旦那様のご両親が大きな紙袋を持ってお越しになられました。
ここからはご家族の時間なので必要な説明を終わらせて私は式場を後にしました。
翌朝、式場へ到着すると喪主様から「聞いてください!」と控室へ引っ張り込まれました。
前日私が帰った後に旦那様とそのご両親から大事な話があると緊迫の雰囲気になったそうで、そこから始まったのは喪主様の知らないお父様のお話。
旦那様が喪主様の実家へ結婚の挨拶へ行った日。その夜に隣の県にある旦那様の実家に来客が。
なんとお父様。スーツを来て、手土産を持って逆挨拶に。
旦那様のご両親が忘れられないのはお父様が挨拶の際に「胸を張って嫁に出せる女性に育てたつもりです。どうかよろしくお願いします。」と玄関先で深々と頭を下げた姿。
そして帰り際に「絶対に今日来た事は娘には言わないで欲しい」と何度も念押しして帰ったそう。
旦那様からはずっと秘密で毎月月初めにお父様と2人で食事に行っていたそうで、そこで毎月喪主様の様子を話していた。
とにかく喪主様の体を心配していたそうで、家族旅行の写真を見せてもお孫さんよりも喪主様の姿を見て「少し痩せたんじゃないか」と言っていた。
料理がおいしい、毎日家事をキッチリしてくれるなどの話を聞くと「まぁそれぐらいは出来るように育てたからな」と満足げにお酒を飲んでいたとの事。
「どう思いますか!こんなに私に内緒で手紙書いてたんですよ!」と見せていただいたのは旦那様のご両親が持ってきた紙袋いっぱいに入った封筒。
喪主が結婚してから毎月1通ずつご両親と手紙のやり取りをしていたそうで。
「こんなん見せられたら、一晩泣いてしまったわ!」と喪主様。
葬儀が終わり喪主様から「本当に良いプラン教えてもらって。もうちょっとで色々知らずに終わってしまうとこやったわ。ありがとうございました。」とご挨拶いただきました。
「いえいえ、私は何もしてません。どちらかというとお父様がはじめからこの流れになるように仕組んでたように感じました」と。
「あの父ならやりそう!」と喪主様はスッキリした顔で笑っておられました。
多くの選択肢がある中でどれを選ぶのかは人それぞれです。
が、選択肢の内容やメリット、デメリットをしっかりと把握しておかないと後悔が残る。
後悔が残らないよう、お客様に合ったものをわかりやすく説明し案内する。
見る力、聞く力、伝える力、、、言葉にすると簡単なのにたくさんの力を備えておかなければ出来ない本当に難しい事だと毎回感じます。
やり直しが出来ないお葬式。後悔の無いお葬式。
この仕事の難しさを改めてお父様から教えていただいた経験でした。