葬儀の役目
「父が亡くなったので、葬儀をお願いできますか?」と当社に連絡があった時、
お父様はお亡くなりになってから既に3日経っていらっしゃいました。
連絡を下さったのは30代前半の女性。彼女が幼い頃にご両親は離婚され、お父様とは音信不通、地元を離れ大阪にお住まいだったこともご存じなかったとか・・・。
そんなお父様がお一人でお亡くなりになり、警察からの連絡でお父様の死を知ったそうです。
大阪まで片道2時間半、子供もまだ小さいし、30年近く会っていないお父様のご遺体を急に引き取れと言われてもどうしていいかわからないと彼女は仰いました。
ご遺体は当社の安置施設にご安置することができますので、ひとまずそちらにお連れして、その後の事は一緒に考えましょうとお伝えし、警察署で待ち合わせをすることにしました。
翌日、警察署でご遺体の引き取りの手続きが終わった後、お嬢様が急に
「もう父の顔は見なくていいので、安置所へは父だけ連れて行ってもらえます?葬儀もしないでいので火葬だけお願いします。火葬も可能ならお任せしてもいいですか?」と
仰いました。お骨も必要ないと・・・。
ご遺体引き取りの手続きの際、お父様の亡くなっていた状況、暮らしぶりなどの説明を受けたそうです。
警察の方からは、「最後にお嬢さんが迎えに来てくれてお父さんもきっと喜んでいますよ。」と言われたそうですが、知らなかったとはいえ、父が一人で亡くなって、亡くなった後も1人で3日も過ごしたのかと思うと、父に申し訳ない。
父とどう向き合っていいのかわからないし気持ちの整理もつかない。顔を見たら後悔の念に苛まれそうで父には本当に申し訳ないが、私には今の家族との生活があるので、ここで全て終わらせたいと仰いました。
おそらく、何か言うことはお嬢様にとってご負担になってしまうと思い、必要な手続きをしていただき、火葬の日時だけをお伝えすることにしました。
お嬢様の希望は、湯灌をして身支度を整えて差し上げ、最後に花束を手向けてほしいとの事でした。せめてもの供養だと・・・。
そう仰っていたお嬢様ですが、火葬執行の少し前に、火葬場にお越しになりました。結局お嬢様が棺の蓋を開けることはありませんでしたが、ご自身で花束を手向けられ火葬炉に納められる棺を静かに見送られました。
最終的には、ご遺族が決めること。幼いころのお父様の記憶が残っていられたのかどうかはわかりませんが、この時に「最後はご拝顔をされてはどうですか?」とか「ご拝顔されなくても何も問題ないですよ」と、軽々しく言えることではありません。
ですが、この最終的にはご遺族が決めることとはわかっていても、いつもこうのような場面に遭遇すると、何が正解だったのか?と自問自答します。決して答えが出ることはないのですが…
なおさら当然、当事者の娘様にしてみれば、警察から連絡を受けてからの数日、様々な葛藤があったに違いありません。そして、お父様の火葬を終えた後も、お気持ちの整理がつくことはないのかもしれません。もしかしたら、ああしておけばよかった、こうしておけばよかったと、悩まれるかもしれません。
そういう後悔の念を持たれないために、どのような形であれ「葬儀」の役目があるのだと。
「きちんと送られましたね」
この一言が、大事なのではないか?
お父様のお骨を地元に連れて帰って差し上げるお嬢様を見て、悲しみが癒えるには時間がかかりますが、頑張ってほしいと思うとともに、少しでも立ち直るきっかけになるお葬儀を提供できる葬儀社でありたいと思いました。