ある日のご当家。
喪主様は医師である男性で、ご自宅からの式場へのご遺体のご移動時に、「母の好きだった庭を通りたい」と希望されました。
天気の良い午後でしたので、お庭のバラや木々たちの中で、ご遺体を載せているストレッチャーを少しの間、停止させました。
そのときです。
喪主様が「ほら、お母さん。バラが見えるでしょう」と故人様に声を掛け、ぐっと故人様の閉じた瞼を指で開いたのです。
あまり、経験のないことでびっくりしてしまいました。でも、気持ちはわかります。
「死んだなんて信じられない」と葬儀後も多くのご遺族がおっしゃられるし、お骨になっていない今の段階では特にそうだと思うからです。
普段、他人の死を多く見つめ、死を判定する役をしている医師でさえも、自分の身内の死となると、物理的には判れても精神的には納得できないものなのかもしれません。