「○○様のお宅でしょうか。(個人様の名前)様はご親戚でいらっしゃいますか」
「はい、兄弟です」
これは、私が担当したある葬儀の現場での出来事です。
故人様には身寄りがなく、近所の方が中心になりお葬儀を準備されていました。
ただ、生前故人様から、むかし結婚をされていたこと、どこかに娘様がおられることは、
聞かされていたそうで、どうしたら連絡がとれるのか、頭を抱えておられました。
時は流れ、担当の私と近所の世話役の方とでどのような葬儀にするのか、打合せをしていた時、どうしたら娘様と連絡が取れるか相談をされてきたのです。
私も出来る限りのことはして差し上げたいと、故人様の携帯に保存されている電話番号へ、
片っ端から連絡を取ってみること、そこから何かヒントが見えるかもしれないと提案をし、
連絡を取っていただいていました。
その途中に、何かヒントになるかもしれないと故人様から預かったものを机の上におもむろに出してこられた時、私はあるものに気づきました。
そこには、本籍のわかる書類があったのです。
私はすぐさま104で本籍の住所と故人様の名字を告げ、電話番号をその地域で3件調べることに成功しました。
その番号を近所の世話人の方に手渡し、連絡をしていただくことになったのです。
そしてその内の1件が兄弟の方につながったのです。
その方は電話の向こうで、
「ずいぶんと昔に行方不明になっていたんです。ずっと探していたんです」
と、おっしゃいました。
私と世話人の方とは鳥肌が立つ思いでした。
そして、
「葬儀には参列できないが、後程お伺いして、田舎の墓に納骨してあげたいと思います。
それまで遺骨を預かっていただけますか」と続けられたのです。
私は、当然のごとく「今頃連絡されても困るからそちらでお願いします」と断られることを考えていたので、すごくびっくりしました。
そして葬儀は世話人の方の手によってごく親しい方々で営まれました。
葬儀が終わり1か月が過ぎようとした時に兄弟の方は遺骨を引き取りに来られ、
親族の手で田舎に帰ることが出来たのです。
普通ではありえない出来事が目の前で起こる現実を目のあたりにし、これは故人様の最後の思いが通じたのだと私は思っております。
そしてこの瞬間に立ち会えたことに感謝し、故人様のご冥福をお祈り申し上げます。