いいお葬式
喪主様と最初にお会いしたのは病院でした。
朝5時ごろに電話が鳴り対応すると、電話口で対応されたのはケアマネージャーさんでした。
詳細をうかがうと、お亡くなりになられたのは生活保護を受けられているお父様で、喪主様も足に障害があり生活保護を受けておられるとの事。
他に連絡の取れる親戚はいない。
喪主様のご希望は生活保護での葬儀ではなく、お父様の為にと就労支援施設で働いていた時に貯めたお金で何とかお葬式ができないかとのことでした。
ケアマネージャーさんから状況を聞いて、取り急ぎ病院へお迎えにあがりました。
喪主様へ名刺をお渡しし挨拶をしますがずっと謝っておられます。
「すいません、色々と申し訳ない」
打ち合わせの中で何度も聞いたセリフです。
ご予算が低いことをとても気にしておられる様子。
死亡届をご記入いただく際に「こちらにはお名前を」とお伝えすると「はい、すいません」といった具合に。
打ち合わせが葬儀の具体的な内容へ入る前に喪主様から直接ご希望を伺う為に3つ質問をさせてもらいました。
・どんなお父様でしたか?
「障害を持っている自分の為に一生懸命頑張って働いてくれた」
・これだけはやってあげたいということはありますか?
「特にない。普通の人と同じようにしてあげたい」
・何かお父様との思い出はありますか?
「授業参観に1回だけ仕事を休んで来てくれた時に折り紙の授業だった。その時に教えてもらった折り紙を2人でよく家でやっていた」
ご予算と喪主様のお体を考え提案したのは直葬でした。
ケアマネージャーさんからも長時間付き添うことは業務上難しいというお話もあったので、喪主様も「それでお願いします。ほんとにすいません」との返答。
「謝らないでください。何も悪いことは無いですよ」
なぜか私の口から出ていました。普段なら絶対に言わないと思います。
ただ、このまま喪主様を帰してしまうと葬儀の日もずっと謝って終わってしまう気がしました。
「そうですよ。普通にお金払ってお葬式をお願いしているのに謝ってばっかりは葬儀屋さんにも失礼ですよ」
ケアマネージャーさんが助けてくれました。
「これは普通のお葬式ですか?」
喪主様から言われたこの言葉はおそらくこの先も忘れないと思います。
今までの経験、知っている知識、自分の状況、、、本当にいろいろな物を含んだ深い言葉だと感じました。
「はい、普通のお葬式です」
おそらく返答まで2秒ぐらい間が空いたと思います。
どのようにお伝えすればいいのか?どんな表情で?声のトーンは?
2秒間で凄まじくいろいろ考えた結果はとてもありきたりな言葉だけしか出ませんでした。
ただ、絶対に目を見て伝えなければと、それだけを考えていました。
「じゃあ、これでお願いします」
この日初めて喪主様が私の目をまっすぐ見てお話してくださった瞬間でした。
葬儀当日、打ち合わせでお話していた折り紙を持参され、棺に1つ1つ丁寧に納められてからの出棺でした。
喪主様から謝罪の言葉は無くなり、ケアマネージャーさんと思い出話を悲しさと楽しさが入り混じった表情でお話しされていました。
社葬、一般葬、家族葬、一日葬、直葬、、、
お葬式のスタイルがとても増えている現在、そのスタイルをどれにするのかも重要な問題の1つですが、「どんな気持ちで送るのか」はおそらくこの先も変わらないお葬式の大きなテーマの1つなんだと感じました。
「全てのお客様にいいお葬式を提供する」
当社の経営理念の1つです。
これがいかに難しいかを深く学んだ経験でした。
後日、喪主様からアンケートの返信を頂きました。
「お父さんは天国への旅に出かけました。
ボクは地上から見守るだけです。
本当にいいお葬式になりました。
ありがとうございました」