奇跡
女子高生が「遅刻する〜」と言いながら食パンを咥えて走れば曲がり角でイケメンとぶつかり、そのイケメンが転校生としてクラスメイトになり、放課後に図書館へ行けば同じ本を取ろうとして「あっ、、、」。
こんな内容がどちらと言うと現実主義で凡人の私が想像する偶然を超えた奇跡でしょうか。
世の中には人間の力や自然現象を超えたちょっと信じられないような事が極稀に起こります。
始まりは妹様からの電話でした。
「兄が自宅で亡くなり警察署に運ばれたので葬儀をお願いしたい」とのお話でした。
警察署での検死は翌日の午前中という事で、翌日の流れをお伝えして翌朝に警察署での待ち合わせ、まずはお兄様のお体を自宅へお連れして落ち着いてこれからの話をしましょうとなりました。
翌朝、全ての準備を済ませてさぁ出発しようかというタイミングで妹様から着信が。
「施設で母も亡くなりました。お葬式って一緒に出来ますか?」
大急ぎで追加の準備をして警察署へ。
妹様と合流し、まずはお兄様を自宅へご安置。
そのまま自宅近くの施設へお母様をお迎えに。
布団を並べてご安置した後、妹様の旦那様も到着されやっと落ち着いてお話する事ができました。
昨日、お母様の入所されている施設から連絡があり、呼吸が浅くなってきて医師から2.3日がヤマだと話があった。
自宅にも携帯にも連絡したがお兄様と連絡が繋がらないので第2連絡先の妹様に連絡した。
妹様はいつもすぐ連絡のつくお兄様と連絡が繋がらないという話に嫌な予感がして仕事を早退し片道1時間以上かけて実家へ様子を見に行かれました。
そして部屋で倒れているお兄様を発見されたとの事。
お母様は小さい頃からお兄様が大好きで、大人になってもお兄様の世話を焼いてばかり。
お兄様もお母様にとても優しく、年を取ってからは色んなところに連れて行ってあげていたそう。
お兄様を早く見つけてあげてとお母様が気づかせてくれたのかなと。
一連の流れをお聞きした後に書類を記入していただくとそこにも驚きが。
なんと死亡診断書を書いたお医者様が全く同じ方のお名前に。
後で刑事さんに聞いたところ、その警察署で検死を担当するお医者様は6名が交代でされており、しかも今回は1人のお医者様がコロナで来れなくなったので順番が変わっているとの事。
順番が変わったお医者様が偶然お母様の施設の担当医だった。
しかもしかも、死因も同じ病名。
これには妹様も「どんだけ仲良いねん!」と笑いながら涙を流されていました。
そして「こうなったらとことん一緒にやったるわ!」と気合を入れ直して打ち合わせに臨まれました。
火葬場に連絡し事情を説明して連続で入場できるように対応していただいたり、宗教家へ連絡し事情を説明して儀式を通常の形からどんな風に対応していただけるか相談したり、ご自宅での葬儀を希望されていましたのでメジャーで計測して棺を仲良く2つ並べる為のレイアウトを考えたり。
通常の故人様お一人の葬儀に比べるとやらなければならない事が多い打ち合わせでしたが、妹様夫婦のご協力もいただき滞りなく進みました。
当日も儀式は粛々と進行し、いざ出棺のタイミングになると妹様は「霊柩車が2台並ぶところなんてなかなか見られへんね」と笑っておられました。
火葬場のご協力もありお骨上げも連続で実施させていただけ、最後にはご自宅に2つの遺影写真と2つのお骨箱。
妹様はしみじみと「これでよかったんか。私にここまでさせて向こうで喧嘩してたら許さんで」とおっしゃっておられました。
もちろん葬儀社として事故や事件で複数の方が同時に亡くなられ、それがご家族であれば同時に葬儀を執り行う事はございます。
ただ、今回のように何か見えないものに引っ張られるようなお二人の葬儀を担当させていただき、現実主義の私も奇跡の力のような物を感じました。
しかし、妹様とたくさんお話をさせていただき、今までのお二人の様子をお聞きすると奇跡でもあり、軌跡でもあるのかなとも思いました。
葬儀には歩んでこられた人生や価値観など亡くなった方のこれまでが表れると言われますが、まさに今回それを目の当たりにしました。
最後に「2回お葬式やらなあかんところを1回で済ませてくれたんかな。大変な仕事をお願いしてしまってごめんね。本当にありがとうございました。」と全てを前向きに捉える妹様と挨拶をしながら、この方のお手伝いが出来て良かったと心から思いました。