幼馴染との別れ
雨の降る日の事です。
ご遺族の皆様は楽しそうな声と笑いがいっぱいなお通夜、お葬式で故人様の大好きなマイケルジャクソン、クイーンなどの昭和〜最近までの洋楽を小さい音ですが、終始流されていました。
「ご近所さんを自宅に招いて、遊んで、飲んで、食べて、とてもフレンドリーな人だったので、その生き様のままに最後は楽しく送り出すんです」とご家族皆様笑っておっしゃっていました。
病気の影響で入院を繰り返し、亡くなる前は自宅に帰れなくてもしもの事があれば自宅に連れて帰って来てあげたい。少しでもいいから一緒にいたい。という思いから故人様は病院から自宅に一旦帰られました。
通夜まで数日間自宅にご安置させていただき、いざ式場へのご移動。
自宅へ伺うと故人様がコレクションされていたCDがいっぱい飾られており「沢山CDあって、故人様の趣味なんですか?」と声をかけ、アーティストの話で盛り上がっていたら、娘様達は色々と思い出されたようで泣き崩れておられました。
「泣かないで、笑顔で見送るつもりやったのに…」と娘様はボソッとつぶやきました。
「まだ少しお時間ございますので、最後に手を握ってお声かけてあげてください」
と咄嗟に皆様に声をかけました。
少し前までは遠くで見ておられた、婿様が、「最後やし、手を握り行こうか』と
恥ずかしそうに、手に触れられて、「ありがとう」と涙を浮かべておられました。
娘様、そして仲の良かったご近所のかたも次々と手を握られたり、お顔、お体に触れて最後のご自宅の時間を過ごされます。
ただ、喪主様だけが「今までいっぱい触ったからいいです…」と、娘様達からの「家で触れるのは今が最後やで」の声にも頑なに「もういいねん」と、、、
喪主様の言動が少し気にはなりましたが、無理にしてもらう事でもなく、、、
それまで涙を流していた皆様も最後には「泣かないで、見送ろう、じゃーね、いってらっしゃい」と無理やり作った笑顔で見送られました。
式場へお連れした後、婿様から「本当にさっきはありがとう、あの時手を握ってあげてくださいと声をかけてくれたから、手を握ったけど、初めてお義父さんの手を握った。お義父さんは友達の様に接してくれたけど、なかなか手を握る事なんて、ないから、最初で最後に手を握ったけど、お義父さんの手は意外に大きかったわー」と笑いながら感謝の気持ち言っていただきました。
あの時、咄嗟に出た言葉で少しでも喜んでいただけてよかったという気持ちと同時に、自分が祖父を亡くした際に恐怖で一切触れる触れる事ができなかった事を思い出し、あの時にもし祖父の手を握っていたら感謝の気持ちをもっと伝えられたのかなと少し後悔も感じました。
滞りなく通夜も終了、翌日の葬儀と粛々と式事は進み、最後に棺の蓋を開けてのお別れの時間。
皆様ワイワイと思い出話をしながらお花を手向けられ、「最後は拍手で見送りしましょう」と婿様が言うと一同拍手喝采。
目には涙もありましたが、娘様達の「いってらっしゃい最後は笑顔で送り出すね」の声と笑顔で故人様は見送られました。
喪主様は娘様達に任せているからと終始前に出ないでいましたが、初七日まで全て終わった後に娘様達が『最後ぐらいみんなに挨拶しとき』とおっしゃり、渋々ながら喪主様がゆっくりと皆様の前に立たれました。
「夫とは幼馴染で幼少期から知っていて、実は初恋の相手同士なんです。今まで本当に長い間ずっと一緒にいたから、こうやってお骨を受け取ってもまだ実感がわかない。亡くなった事がまだ信じられない気持ちです。今にも後ろから名前を呼ばれそうで。これから私はどうやって生きていけるのか不安で仕方ないです。でも皆様にも見ていただいた通りしっかりした娘と婿がいるので、今までと同様に笑顔の絶えない生活を送っていきます。」
ずっと気丈に振舞っておられた喪主様が大粒の涙を流しながらおっしゃられました。
私は、喪主様の言葉やその時の雰囲気が忘れられません。
ただ1人最後まで涙を流さず笑顔で見送っていた喪主様。
そんな喪主様を見て、緊張されているのか?疲れておられるのか?と様々な思考を巡らせていましたが、大切な方を急に亡くした戸惑い、そして頼りになる娘達の姿に安心しておられたんだと気づきました。
お見送りの際に「喪主様と故人様はドラマみたいな大恋愛だったんですね」とお話しすると
「そうでしょ?なかなかの大恋愛やったんです。最後に泣いてスッキリしたわ。ずーっと我慢してたんです」と一番の笑顔を見せていただきました。
最後に娘様、婿様と握手を交わして「笑顔があれば幸せになれるし、その笑顔を武器にしていき」と逆に励ましの言葉を頂戴しながら、このご家族の最後の旅立ちの手伝いができて心から良かったと思いました。