最後のわがまま
とあるご夫婦が、お葬式のことについて話を聞きたいと、「家族葬おくりみ」にお越しになられたのは夏真っ盛りの頃でした。近隣にお住まいで通院のついでにお立ち寄りくださったとのことでした。
どなたかご心配な方がいらっしゃるのか伺うと、
ご夫婦お二人ともがんを患っていて、特に奥様のほうが心配な状況であること。
ご夫婦にはお子様がいらっしゃらないこと。
お子様はいらっしゃらないけれど、姪御様がご夫婦を助けてくださっていること。
ご主人様がお話してくださいます。
どんなお葬式にされたいのか伺うと、
ご主人様のご両親のご葬儀の時は、300名くらいのご会葬があったが、自分たちの時は、家族葬にして近しい身内だけに参列してもらいたい。
同じマンションで、親しくお付き合いしている家族がいるが、参列はご遠慮いただこうかなあ。
と、ご主人様がお答えくださいます。
奥様は、ご主人様の隣にそっと寄り添っていらっしゃいます。
お葬式のプランや、検討しておいたほうが良いこと等お伝えして、その日はお帰りになりました。
奥様がご逝去されたと当社にご連絡いただいたのは、手をつなぎ、奥様を支えるように歩いて行かれたご夫婦の後ろ姿を見送った日から、ひと月と少し後、まだまだ残暑厳しい日のことでした。
ご葬儀のお打ち合わせのためにご自宅にお伺いしたところ、ご主人様と、姪御様がいらっしゃり、お二方とお話しさせていただきました。
ご主人様は、奥様が亡くなられたことについて、まだまだ受け止め切れていらっしゃらず、何だか心此処にあらずといったような雰囲気でした。
お打ち合わせを進める中で、奥様がおしゃれで、お洋服が大好きで、ショッピングにもよく出かけられていたと教えてくださいました。
ならばと、ピンクや赤の華やかなお色の祭壇や、お棺をおすすめさせていただきました。哀しいからこそ少々投げやりになってしまっているご主人様に、姪御様がこれにしてあげたら?こっちのほうがええんとちゃう?と、あれこれアドバイスしてくださいます。
病院にお迎えに上がらせていただいた時点で、おしゃれなお洋服をお召だった奥様ですが、お湯灌の後には、また違うお洋服が良いのでは、と姪御様。購入されたまま、まだ一度も袖を通してないお洋服もあって、そちらにされることに。ファッション大好き、ショッピング大好きの奥様だからこその、選択です。
そうして迎えたお通夜には、当初参列をご遠慮いただこうかなあ、とおっしゃっていた同じマンションの仲良くされていたご家族、三世代で揃ってお越しになられました。そのご家族のお子様たちをご自身のお孫さんのように可愛がっていらっしゃったようで、最後の夜を、とても賑やかにお過ごしになられました。
翌日、ご葬儀の日。お寺様のお経が終了し、お棺のお蓋を開けてのお別れのお時間です。皆様の手で、お花でいっぱいにしていただきます。
最後の最後に、ご主人様がピンクの大きなバラに口づけて、奥様のお顔のすぐ近くにそっと捧げられたのがとても印象的でした。
お式がすべて済んで、ご自宅に四十九日までの段飾りを作りに行かせていただいた際、ご主人様がしみじみとおっしゃっていたのが、ご夫婦でお葬式の事前相談にお越しになれた日のことでした。
通院とおっしゃっていましたが、実は歯医者さんに行った帰り道だったそうです。「家族葬おくりみ」の前をよく通るので以前からご存じだったとか。特に、会館やその周辺を掃除しているスタッフの姿をご覧になっていたそうで、それが印象に残っていたそう。その日も二人で歩いていて、奥様がふらふら~っと「家族葬おくりみ」に入っていこうとされたので、それでお葬式の話しを聞くことにしたそうです。けれど、奥様がご自分で入ろうとされたにもかかわらず、いざお葬式のお話しとなっても、特に何も希望も言わなかったでしょう、とご主人様。確かに、たくさんお話ししてくださったのはご主人様で、奥様はほとんどお話にならなかったのです。
でも、妻が自分自身で「家族葬おくりみ」を選んだ、だからここでやってあげようと思った、とご主人様。本人の希望を叶えてあげることができて、最高の家族葬ができて良かった、とおっしゃってくださいました。
お二人でいらっしゃったとき、こんなに早く、その時がやってくるとは思えなかったのですが、奥様はなんとなく、わかっていらっしゃったのかもしれません。言葉にはしないけれど、これが奥様の最後のわがままだったのでしょう。
奥様のご要望を、2つ目、3つ目のわがままを、奥様の言葉で教えていただくことが叶わなかったのは、私の力不足だと感じています。何かひとつでもお聞きでていれば、と悔しく思っています。
ただ一方で、奥様の最後のわがままで、「家族葬おくりみ」を選んでいただけたことは大変有難く、また、日々お客様に気持ちよくご利用いただけるように努めていることを気に留めていただけたことを嬉しく思っています。
これからも、皆様の大切な「最後のわがまま」をひとつでも多く叶えるお手伝いができるように努めてまいりたいと思います。