心残りの先に
葬儀社の社員として働いて約5年。本当にたくさんの葬儀に携わらせていただきました。
そこには必ず「大切な人の死」があり、そしてそれを見送るご遺族の思いというものがあ ります。
表情や対応は千差万別で涙にくれる方、穏やかな笑顔の方、呆然と立ち尽くす方。
ご遺族の為に何が出来るのか。あれをやったら喜んでくれるだろうか、これはちょっと演 出が強すぎるかな、、、などなど、私は常にこちらから私にしかできない何か特別なものを 提供することでご遺族の心残りを無くすことが出来ると思っていました。
しかし、そんな思いを考え直す葬儀に携わらせていただきました。
喪主を務められたのは50代の娘様。亡くなられたのはお母様。
喪主様のご自宅にての打ち合わせから深い疲労をにじませた表情をされていました。
打ち合わせの中で何度も涙を流され、何度も「私が悪いんですけど、、、」と自戒の念を述 べられていました。
お母様は87歳。ご近所からも慕われ、穏やかで優しい人柄だった。
2年前に癌が見つかった時にはすでに手の施しようがないほど進行していたそうで、それ からはずっと病院での入院生活に。
喪主様の旦那様が「平均寿命は生きることができたし、病気に関しては誰もどうする事も
出来ないものだし仕方がないよ」とおっしゃっても「いや、私がもっと、、、」と常にうつ むき加減でお話しされます。
通夜も葬儀の日も喪主様は席に座ってじっと遺影写真を見つめておられました。
最後のお別れでお花を手向ける際もずっと故人様の顔を見つめて泣いておられました。
お骨上げも終わり最後にご自宅に伺ってお骨を安置し今後の四十九日のお話などをさせ ていただきました。
喪主様の表情は少し明るくなっておられ、ゆっくりとお話することができました。
喪主様は教師として忙しく働いておられ、仕事・子育て・家庭を何とかやってこれたの も嫌味ひとつ言うことなく笑顔で手伝ってくれたお母様がいてくれたからこそ。
それなのに感謝を伝えることもなく、お母様が入院された際もちょうど新学期の忙しい時 期だったこともありイライラをぶつけてしまうこともあったそう。
医師からいよいよ危ないと言われるまでお母様が亡くなるという実感が湧かなかったので 逃げるように仕事をしていた。
お話の最後に「自分自身に悔しくてしょうがないんですけど、この2日間でゆっくり母の ことを考えることが出来て色々整理できました。心残りはあるけどそれも含めて母を思い 出せる切っ掛けにできそうです。良い時間をありがとうございました」とおっしゃり少し 笑顔を見せていただけました。
この時に私は葬儀社の社員として勘違いしていたと気づきました。
一番大切に丁寧に提供しなければならないものは「故人様と向き合う時間」だと。
完全に満ち足りた別れなど存在せず、また葬儀で何か特別なことをしてもそれはプラスア ルファであり核心部分を変えるものではない。
ご遺族にとって葬儀は「終わり」ではなくこれからも続く「区切り」なんだと改めて教え ていただいた事柄でした。
人が人を送るとき、心残りは必ず生まれてしまう。
私はそれを葬儀で無くすことが出来る、もしくは減らすことが出来ると勘違いしていたの だと思います。
心残りは避けることができないが、決して不幸なことではない。
むしろ心残りがあるからこそこれからを強く生きていけるのかもしれません。
葬儀の場で心残りを少しでも前向きなものに変えていただける時間を提供することが一番 大切な仕事なんだと改めて学ぶことが出来ました。
