欲しかった言葉
「母を、褒めてあげて欲しい」
以前に担当させていただいたご葬儀で、喪主様がご挨拶の際に発せられたお言葉です。
喪主様は長年、体調の思わしくないお母様を介護しながら一緒に生活されておられました。
そんな中、ある日ほんの些細な事でお母様と言い合いになってしまったそうです。
その時にお母様を少し責めてしまった喪主様に対してお母様が一言おっしゃったそうです。
「私は頑張った。責めるだけでなく、それも認めてほしい。褒めて欲しい」
それからというもの、その言葉がずっと頭から離れませんでした。
「母は何かを求めたりはしませんでした。贅沢もしませんでした。そんな母が私に求めたのは後にも先にも自分は頑張った、ということ。それだけかもしれません。だから皆様、今まで頑張り続けた母を、どうか褒めてやって下さい。」
そんなご挨拶を聞いて非常に心を打たれ、そして考えさせられました。
私は母を褒めた事などありません。
もちろん感謝はしていますし、感謝の言葉は幾度となく直接伝えてきました。
実際は感謝よりも謝った事の方が多いかもしれませんが。
「うちの母はこんな自分をかろうじて見捨てずに育ててくれた、我慢強い凄い人だ」
と、何かの折に妻や友人に話すことはありますが、
直接褒めるということをした覚えはありません。
皆様はどうでしょうか?自分の両親を褒めることはあるものでしょうか?
きっと誰だって褒めて欲しいはずです。
そして、ご両親は人を育て上げるという偉業を達成されておられるのではないかと考えます。
私も二人の子どもを育てる身となり、子育ては非常に大変で何度も心が折れそうになることも。
それをやり通したご両親は褒められるべきではないでしょうか。
子供としては感謝の念や親の偉大さを感じていながらもどうしても照れくさい、という気持ちが先に出てしまったり、
また「親を褒める」というのは何だか子供がすることではないような気がしていたり、
そんなことで「褒める」ことが出来ていない。
喪主様の挨拶は、本当はもっと「褒めてあげたかった」「褒めてあげればよかった」という
後悔の念もありながらの挨拶だったのかもしれません。
ですから私はご葬儀の後、喪主様と少しお話させていただき、その際に
「喪主様のご挨拶に強く胸を打たれました。私も母を褒めてあげようと思います」
「是非、そうしてあげてください」
そんな約束をさせていただきました。
そしてもうすぐ、私の妹が結婚式を挙げます。
私は三人兄弟ですが、これで全員が結婚しますので一区切りといったところ。
私の両親は成し遂げました。
母と、そして父の墓前にて、
育ててくれた感謝と、精一杯の賛辞を送らせていただきます。