仏(フランス)式葬儀
日本のお葬式は9割が仏式葬儀です。
ただ、今回のお話の葬儀は「仏式葬儀=仏教式葬儀」ではなく「仏式葬儀=フランス式葬儀」です。 葬儀社に入社して様々なお葬式に携わらせていただき自分の中では「一通りは経験したかなぁ」なんて慢心していました。
病院からの一報を受けて故人様をご自宅へ搬送し、打ち合わせの席についた瞬間、私の慢心をあざ笑うかのように打ち砕かれる感覚になりました。 亡くなったのはフランス人の女性。
30年以上前にフランスから来日し、フランス語の講師として働いておられました。
日本人である喪主様と結婚。以来、住んでいた町の地域活動にも熱心に参加し、在日フランス人のコミュニティでも中心的な役割を果たしてきた、誰からも愛される社交的な明るい女性だったと。
自宅のベッドに休む故人様の枕元で、私は打ち合わせ開始1分で壁にぶつかりました。 「お手数ですが、まず役所に提出する死亡届の記入をお願いします」
私が書類を差し出すと、疲れた表情の喪主様が、頭を抱えて唸った。
「それがね、妻の本名ってめちゃくちゃ長いんですよ。パスポートの表記通りに書かなきゃいけないんですよね?」
「そうですね、長くても全部正確に記入していただく必要がございます」
喪主様が差し出してきた故人様の身分証明書を見てビックリ。
アルファベットで43文字になるフルネーム。ミドルネームや聖人の名前、由緒ある家系の姓が連なっている。
喪主様に記入していただいている間に念のためと思いスマホで調べてみると日本の法律では、外国籍の方が亡くなった場合、死亡届を受理してもらうためには全てのアルファベットをカタカナに変換し、日本の規格に合わせる必要があるとのこと。
一文字でも間違えれば、役所の窓口で撥ねられ、火葬許可証が発行されない。つまり、お葬式が始められない。
「ちょっと役所に聞いてみましょう」
区役所に電話し、戸籍課の担当の方に繋いでもらい、事情を説明すると「前例を確認してすぐに折り返します」と。
10分後に折り返しがあり「やはり全部カタカナに変換して記入していただく必要があります」とのこと。
しかもカタカナはパスポートには記載がなく、登録などもないので今から自分たちで考える必要があると、、、。
「『ヴ』ですか?それとも『ブ』ですか?」
「フランス語の発音だと『ヴ』に近いけど、登録時はどっちになってるんだ!?」
「喪主様、過去の在留カードの控えはありませんか!?」
「待って、どこだっけ、あの引き出しの中か……!」
家中の書類をひっくり返し、アルファベットとカタカナの整合性をパズルのように合わせていく。
役所の担当者さんも電話をつないだまま対応してくださりなんとか終了。
しかし、これは序章に過ぎませんでした
死亡届の記入が終わるころには故人様と仲の良かった近所の方々や在日フランス人のご友人などが一報を聞きつけてご自宅へ続々とご拝顔に来られました。
そんな中、具体的な葬儀のプランを決めるための打ち合わせが始まりました。
席についたのは、喪主様。そして、故人様の大親友だというフランス人女性二人。
ここで第二の、そして最大の試練が。
実は喪主様はフランス語は全くわからないとのこと。
しかし同席したご友人2人は故人様が日本に来る前からの付き合いで、お1人は日本で5年ほど働いていた方。そしてもうお1人は日本に何回も来ているがそれは観光で、しかも来たときは故人様が通訳で同行してくれるので日本語は全くわからない。
お1人は日本語が少し話せるようで、必死に間に入って通訳を買って出てくれた。・・・頼みの綱はこの方のみ。
ご希望は故人様が生前から気に入っておられた当社の会館。
自宅から近く散歩コース上にあり、自然を取り入れた雰囲気をとても気に入っておられたとのこと。
「妻は車で15分ほどのカトリックの教会に通っていたので、そこの神父さんに来てもらって葬儀ができれば」
このご希望に私の背中には汗が、、、
キリスト教の中でもカトリックは特に伝統に厳格で儀式を重んじることから、正式な儀式として執り行うために葬儀の場所は、原則として所属の教会となることが多いのです。
急いで教会に電話するも誰も出られず。それもそのはずで本日は日曜日。おそらくミサの真っ最中。
「とりあえず行ってきます!」
と教会に行って直接事情を説明するも、やはり教会での葬儀にしか対応していないとのこと。
自宅に戻ってお伝えすると皆様頭を抱え、日本語とフランス語が飛び交う。
日本語の話せない方は納得できないようでフランス語でずっとお話しされている。
通訳の方がお伝えしようにも「規則」「派遣」「宗教的儀礼」といった難しい単語が伝わらず、私の意図を汲み取ってもらうまでに、何度も何度もジェスチャーやスマホの翻訳アプリを挟まなければなりませんでした
「式場は絶対にあの方の会館じゃないと妻に怒られる」という喪主様の言葉をきっかけに皆様の方向性が定まりだす。
とにかく式場はお気に入りの会館で、あとは宗教的儀礼をどうするか。
無宗教や日本の仏教式の話題も出ましたが故人様らしい送り方を考えるとどうすればいいか、、、
私→「フランスで葬儀は何度も参列されてるんですか?」
なんとなくお聞きした質問で場が突然動き出しました。
通訳の方→「私たちは両親の葬儀も含めて何度も参列しています」
喪主様→「じゃあその感じを神父さん無しでやってもらえば妻も喜ぶんじゃないかな」
通訳の方→「そんなことやっていいんですか?」
私→「打ち合わせや準備など細々と決めなければいけないことがあるので、皆様にご協力いただけるのであれば何とかなるかもしれません」
次に決めるのは、お葬式の進行です。
神父様がいないため、儀式の進行を誰かがやらなければならない。
最終的に司会者が日本語で進行しながら横に通訳の方が付いて日仏合同の進行に。
(聖書の朗読は私がやります!)
(私は、彼女が好きだった讃美歌の音源を用意するわ!)
こちらは私の想像ですが、たぶんこんな感じでフランス語で会話されていたと思います。
何とか流れが出来て、おおよそのお式次第が決まった頃に喪主様がこのタイミングで思いもよらぬ一言を仰いました。
「彼女、エディット・ピアフの『愛の讃歌』が大好きでね。家でもよく聞いてて。お葬式で流すのはダメかな?」
私とフランス人のお2人で目を合わす。
(もうちょっと早く言ってくださいよ~!!)
私の人生でフランスの方と心の中で会話できる時が来るとは思っていませんでした。
「いいえ、そんなことはありません。どのタイミングで流しましょうか?」
愛の賛歌を入れ込む打ち合わせも無事終了。
おおまかな進行台本を日本語で作成し、AIに読み込んでフランス語に変換してお二人に入力してもらい、意見をいただく。
やはり欧米の方は遠慮なく思っていることを言ってくださるので話が早くまとまっていく気がしました。
そして、葬儀当日。
驚いたのは、式場へ来られた皆さんが全員笑顔だったこと。
(フランスの方の葬儀はこんな感じなんやぁ)と思っていましたが、、、
後から聞いたお話ですが、喪主様とフランスのお二人が葬儀の日程などを連絡する際に「服装はなんでも大丈夫です。来るときの唯一の指定は彼女らしいお見送りの為に全員笑顔で来てください」とお伝えしていたそうです。
打ち合わせ通り順調に式事は進行していく。
最初は少し声の小さかった神父さん役の方も通訳の方もだんだんと調子が上がっていく。
途中から日本語で喋っている司会者の言葉に頷いているフランスの方が多くいらっしゃいました。
日本語がわかる方だったのか、、、気持ちが通じたのか、、、
笑顔も涙もいっぱいの日本流フランス式お葬式。
火葬、お骨上げと全てが無事に終了し最後は皆様を式場でお見送り。
「アリガトーヨカッタヨー」と全力でハグをしていただきました。
なぜか純日本人でフランス語が話せない喪主様ともがっちりハグをしました。
言葉が通じなくても、形式が完璧でなくても、大切な人を想う気持ちさえあれば「その人の為だけのお葬式」は創れるという事を教えていただきました。
ハグの温もりを感じながら、この仕事の学びに終わりがないことを学びました。
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